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第7話
買い物から帰ってきて、栄彦さんと一緒にハンバーグナポリタンを作る。
誰かと一緒に、なんてしたことがなかったから、私は嬉しくて、鼻歌を歌いながら、作業をした。
栄彦さんは、そんな私を見て、優しく笑う。
「楽しそうで良かった」
「?」
「恩恵くん、あまり表情に出さないから」
「…………」
「無理しなくても良い。でも、俺は恩恵くんが笑ったり泣いたり怒ったりするのを見たいな。それが、成長っていうものだと思うし」
「……私には、難しくてわかりません」
「良いんだ。子供には、解らないことだからね」
「むぅ。私は、確かにまだ子供です。だけど、子供扱いされたくありませんっ」
「あはは。それはごめん」
「…………」
栄彦さんといると、温かくて、気持ちが良い。
いや、居心地が良いって言うのか。
初めてのことばかりだけど、嫌な気持ちにならない。
「栄彦さん……」
何となく、名前を呼ぶと。
栄彦さんは、作業をしながら「どうした?」と訊く。
「何かあったかい?」
「……料理って、人とやると楽しいんですね」
「…………」
「私は、いつも一人だったから……。早めに作って、弟と妹たちに食べさせて、てやっていました。だから、こんなに楽しいなんて知らなかったんです」
私は手を止め、栄彦さんを見て言う。
「ありがと――」
お父さん、と言いかけて。
私はハッとし、やめる。
「――栄彦さん」
「……こちらこそだよ、恩恵くん」
栄彦さんも手を止めて、私を見て言う。
「君がいなかったら、料理なんてしなかったな。こんなゆっくり、楽しく」
「……え?」
「ご飯を食べながら、ゆっくり話をしようか」
「うん」
そうだ。
私、まだ栄彦さんのこと、知らないんだ。
栄彦さんも、きっとまだ私のこと、知らない。
だから、というわけではないかもしれない。
でも、その、何だろう。
私は、まだ彼をお父さんと呼んではいけない気がした。
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