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第9話
「ところで、突っ込んだ質問になるかもしれないけど」
栄彦さんは、私にそう言ってから訊く。
「どうして、家を……?」
「っ」
「答えづらかったら、それは答えなくて良いんだ。ただ、一応知っておきたくてね」
「……私が」
男が好き。
そう言ったら、栄彦さんは何て言うのか。
すぐに想像できて、手が震える。
「私が、お、おと――」
「震えてる。そんな、頑張らなくて良い」
栄彦さんは、私の手に触れ、優しく言う。
「君は、無理をしないということを、しっかりと覚えるんだ」
「…………」
「と言っても、君は無理をしてしまうだろうね」
そう言って、栄彦さんの手は離れていく。
私は、その手を少し強引に引く。
離れていってほしくなくて。
「私、男が好きなんです……! でも、それが気持ち悪いことは、判りました。解らないけど、判りました……!!」
「……………………」
「す、すみません、放しますねっ!」
私は手を放す。
そして、まだ少し残るハンバーグナポリタンを見ながら食べる。
――言ってしまった。
つい。
言うつもりなんて、特になかったのに。
気持ち悪い、よね。
嫌だ、よね。
嫌われた。
怖くて、震えながら、私は顔を上げ、栄彦さんを見る。
栄彦さんは、少し泣いていた。
嫌だという思いから、だと思う。
「ご、ごめんなさい!」
私が謝ると、栄彦さんは首を横に振る。
「違う。君は、謝ることない。謝らないでほしい」
「え……?」
「そっか、神様は……ちゃんと見ているんだな。そして、俺にもう一度チャンスをくれたんだ」
栄彦さんは、何回か頷き、涙を拭う。
「俺は、気持ち悪いなんて思わない。だって、仕方がないことだから。好きになる相手が、たまたま自分と同じ性別だった、ということだろう?」
「………………」
「俺は、もう否定しない」
否定なんかしないよ。
そう言って、栄彦さんは残りのハンバーグナポリタンを食べた。
私は気になったけど、何も言わず、ハンバーグナポリタンを食べた。
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