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第10話

 次の日。  私はぼんやりと目を覚まし、隣で眠る栄彦さんを見た。  昨日は結局、何も聞けなかった。  聞こうとしたけど、何だか聞けなかった。 「………………」  栄彦さん、何があったのかな。  三年前、というと奥さんと息子を亡くした――て。 「栄彦さん」  何となく名前を呼び、手を伸ばそうとすると。  栄彦さんが「どうした?」と返事をして、笑いかける。 「何かあった?」 「い、いあ、え、えっと……。お、おはよございまふ」 「あはは、慌てすぎだよ」  恩恵くん、と栄彦さんは優しく私の頭を撫でる。 「おはよ。今日は、遊園地に行こうね。昨日、約束したし」 「……うん」 「体調悪い?」 「ううん。ただ、昨日のことが、気になって……」 「昨日?」 「もう否定しない、て」 「あ……」  栄彦さんは少し悲しそうな顔をし、起き上がる。 「俺の息子は、君と同じ、同性愛者だったんだよ」 「……そうだったんですか」 「そのことを、クラスメイトにバラされたらしくて。それで虐められたんだよ。俺も相談された。妻もね。妻は、そんな息子を受け入れ、虐めに真剣に向き合った」  でも、と栄彦さんは言う。 「俺は、受け入れられなかった。否定してしまった。その次の日だったよ、息子が事故で死んだのは。事故、と処理されたけど、あれは自殺だった。その息子の後を追うように、妻も事故死した」 「…………」 「たくさん後悔した。今も後悔している。俺があの時、妻と一緒に、息子とも一緒に、真剣に向き合えたら。息子のことを否定せず、受け入れられたら」 「栄彦……さん……」 「すまない、嫌になっただろう?」  そう言う栄彦さんは、本当に悲しそうで。  私は、聞いたことを後悔した。  そんな悲しい顔をさせたかったのではない。  ただ気になっただけ。 「あの……、すみません。そんな悲しい顔をさせたかったんじゃないんです。私は……、あなたのことを知りたかったんです」 「知りたかった……?」 「うん。今も、知りたいって思います」  だって。  だってね。 「私、あなたのことが好きだから……。だから、知りたいんです。でも、そんな悲しい顔なんて、させたくないんです」 「……………………」 「………………っ!」  ハッとし、私は栄彦さんから目をそらす。 「す、すす、すみません! えっと、あの、遊園地、行く、準備します!」 「……うん」 「…………」  チラリと、栄彦さんを見ると。  栄彦さんの顔は、赤くなっていた。

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