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第3話

くるみとレーズンの入ったパン生地を丸めてオーブン皿に並べ、オーブンに入れる。 オーブンに火をつけ、じゃがいもとベーコン、キャベツのスープとサラダを作った。 ハンバーグをサラダと同じ皿に盛り付け、揚げたポテトも添える。 そうこうしている間にオーブンからパンの焼けた合図の香ばしい香りがやってきて、開けると綺麗な焼き色が付いていた。 パンを布を敷いたバスケットの上に並べ、テーブルの真ん中へ。スープとパン用の皿、そしてサラダの乗った皿を並べ、フォークとスプーン、バターを添える。 食卓に座って、ぼぅーっと時計を眺める。 今日は7時には帰ると伝えられたので、7時少し過ぎにできるように始めたが、時計の針は7時半を示していた。こんなのはいつものことだ。 でもやっぱり少し残念に思いながら、彼の食事に蓋をかぶせ、まだ少し温かいパンを皿の上に乗せる。 少し寂しい気持ちでサラダを口に運ぼうとすると、ガチャ、とドアの開く音がした。 「テオ、ごめん。少し長引いて。」 「おかえりなさい。寒かった?」 玄関まで行くと、薬のようなにおいとともに、アシュリーが入ってきた。 玄関先で雪のついたコートを預かり、暖炉近くのハンガーにかける。 「そこまでしなくていいっていってるのに。あ、今日も美味しそうだね。ありがとう。」 心底嬉しそうに頭を撫でてくる彼は、3年前に僕を拾い、そして育ててくれた人。 もう数えで16になるのに、3年前と同じように、いつでも抱きしめたり、頭を撫でたり、彼は僕に愛情をくれる。 すごく心地よくて嬉しい。3年前は心因性?だとかなんとかで出せなかった声も、今はもうふつうに出せるようになった。 間違いなく彼のおかげだ。 ・・・と、ずっとそう思ってきたし、彼にはとても感謝している。 今もそれは変わらないのだが、彼は人並みはずれて綺麗な容姿をしているので、実は少し困っていたりもする。 こんなに美しい顔がこんなに近くにあり、そしてその温もりが自分に優しく触れている。 やましい気持ちはない(と自分では信じている)が、平静を保つのは難しい。自分の鼓動は激しく脈打つから、いつか気付かれないかと心配になる。 「ごめん、遅くなっちゃったから少し冷めちゃったね。手を洗ってくるね。」 彼が手を離すと、安堵とともに少し切なさが残る。その気持ちを振り払い、彼の食事にかぶせた蓋をとり、自分の場所に座った。 彼が冷たいといいながら手を洗って食卓に着くと、僕にありがとうとお礼を言って食べ始める。 「くるみレーズンのパンか。硬さもちょうど良くて美味しいね。 テオの料理はどれも美味しいけど、これはすごく美味しい。」 食べながら感想を言われて、すごく嬉しく感じた。アシュリーはほんのり甘いものが好きだから、レーズンパンの具を半分くるみにしたらもっと好きな味になると思ったのが合ってた。 くるみを割るのは苦手だけど、また作ろう。 「よかった。また作る。」 「本当?嬉しい。楽しみにしているね。、ありがとう。」 僕は喋れるようになっても無口で、何もできないくせに置いて欲しいとわがままを言った上に、表情もわかりにくい僕かった。 そのくせただで置いてもらうわけにはいかないから家事を教えてほしいというわがまままで言ったが、快くもともとできた洗濯以外の料理、掃除などを教えてくれた。 足も、生活に支障のないレベルに動けるまで丹念にリハビリに付き合ってくれた。 何よりここに置いて、愛情を与えながら育ててくれた。ありがとうはこっちのセリフでしかない。 彼の声が響く温かい食卓は、何よりも幸せな時間。 どんな仕事をしているかはわからないが、彼は忙しいようで、決まった時間に帰ってくるのは週に2回、休みは週に1回で、それ以外は毎日夜中や次の日の朝に帰ってくる。 一度だけ仕事について聞いたとき、彼は笑ってごまかして、すごく寂しそうな顔をした。 だから、それ以来何をしているのかは聞いていない。 次の休日はいつだろう。 そんなことを考えながらぼーっと彼の食べる姿を見た。手でパンをちぎって食べるところ、フォークでベーコンを食べるところ、、、普通の仕草なのに、なぜか以上に惹きつけられて、、、って、何考えてるんだろう。 「テオ、卵落ちそうだよ。」 優しい声で注意され、我に返る。何だろう今の考え方は。 フォークを持ち直し慌てて食べ続け、食べ終わって洗い物をしようとすると、それより先に彼が立ち上がった。 「洗い物くらいさせて。いつも悪いから。」 アシュリーはいつも優しくてだいたい笑顔だ。でも、仕事から帰ってきてすぐの彼はどこか寂しげに見える。 慌てて食べ終わって一緒にやろう、と言うと、「休んでていいのに。」といったあと嬉しそうに「でも、じゃあ洗うのはやる。」と言って布巾を渡してきた。 2人で隣り合わせながら洗い物をしている間、彼は仕事以外の、何の変哲も無い話を絶えず僕にしてくる。 外の天気の話とか、風邪ひいてないか、とか、もうすぐクリスマスだね、とか。 日常会話って、どう返していいのかよくわからないから、ぼくは彼の話を全部注意深く聴きながら、うなずいたり、時々相槌を打ったりする。 初めて来た時からずっと、変わらずここは温かい。 彼の優しさで満ちた空間は、ときどき夢なのではないかと疑ってしまうほど幸せだ。 彼と一緒にいるこの時間を、僕はとても愛している。

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