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第4話

「テオ、外に出てみない?」 唐突に切り出されたのは、クリスマス5日前の朝。 今日は1日休みの日のようで、のんびり9時に起きて朝食を済ませたあと、唐突にそう問いかけられた。 「え、、、っと。」 「いや?それとも怖い、、、?テオが嫌ならいいよ。」 僕のなんとも言えない表情を見て、彼は慌ててそう付け加える。 いやだとか、嬉しいとかそういうことは抜きに、突然のことにびっくりした。 実はこの家に来てから、一度も外に出たことがない。理由は、この家の居心地がよくて一度も外に出たいと思わなかったからだ。 それに、アシュリーが一そう言ってきたことも一度もなかった。食材や生活用品は常に彼が買い足していたし、家の中が広いので窮屈に感じたこともない。 しかし、いやでもないので、少し間をおいて行くと答える。なによりアシュリーといられることがうれしい。 休みだと言ってもよく彼は買い出しに行ってしまうので、今日は一日中一緒なのだと思うと幸せに感じる。 「じゃあ、支度してくるね。」 「僕は洗濯済ませておく。」 「いつもありがとう。」 アシュリーは僕につねにありがとうを欠かさない。 多分僕が彼に負い目を感じているのを、彼がわかっているからだ。 それでも、ありがとうという言葉は不思議で、それを言われただけでふわふわした気持ちになる。 手が荒れてしまうからと寒いからという理由でアシュリーにもらった水を弾く厚手の手袋をつけ、桶に水を張る。 ここにくる前は井戸水で外でしていた洗濯だが、この家では蛇口をひねると年中水がちゃんと出る。どこかの室内に水をためておくタンクがあるそうで、そこから水を供給しているらしい。 男2人分、冬はそこまで汗もかかないので洗濯は2日に一回まとめてしている。 洗濯しているといつとアシュリーの着ている服も、彼の買ってきた僕の服も、触り心地がいいなと思う。きっと何かこだわりがあるのだろう。 ある程度汚れを落としたらしぼって暖炉の前の吊るされたヒモに洗濯物を干していく。 干し終わったら、かじかんだ手を温めるためと、自分へのご褒美にココアを淹れ、ホッと一息。 一口口に含むととろっとした生クリームと牛乳の中間くらいの温かい液体とともに、甘さと香ばしさと少しの苦味が口いっぱいに広がった。 アシュリーに初めてココアを飲ませてもらった時、この世にこんなに美味しいものがあったのかと感動した。 僕が飲みながら表情を少し変えたからだろうか、彼はその日を境に冬になるとミルクと生クリーム、ココア、砂糖という贅沢な品を全て切らすことなく買い置きしてくれるようになった。 そして甘やかされすぎだと思いながらも自分へのご褒美にありがたく飲んでしまっている。 ココアを飲み終わった頃に、アシュリーが支度から戻ってきた。そして僕の肩にふわふわした温かい何かをいきなりボフっとかけてきた。 「これ、俺のでサイズは少し大きいと思うけど、寒いから。」 そう言われてみてみると、ベージュの毛皮のコートに身を包まれていた。 確かに少し袖が長いが、ぶかぶかというわけではない。温かくて触り心地の良い、きっとすごく上質なものだ。着ていて気持ちいい。 「ありが、、、っ!?」 お礼の気持ちを行動でも伝えようと手を握ろうとして振り返って、ぞっとした。思わず自ら伸ばした手を引っ込めてしまう。 「そんなに驚かなくても。」 そう行って苦笑いする、声はアシュリーだ。しかし見た目は全く違う。 焦げ茶の髪に、紫色の目、薄いベージュの肌。口、目鼻立ちは驚くほど整っていて変わらないが、髪の色と髪型、瞳、そして肌の色が全く違う。 ここまで変わって驚かないでと言われるほうが無理だ。 「ちょっとした変装。テオと一緒にいるのを邪魔されたくないからね。」 「そっか。」 聞きたいことは山ほど出てきたが、伝えることはしない。 僕も彼に聞かれたくないことならたくさんある。考えるのは自由だから、思考を巡らせてみた。 周りを見渡すと、高級そうな家具がちらほらある。 僕の服も、彼の服も高そうだ。食事の質も高く、ココアの材料を常に切らさないほど贅沢な食生活ができる。もしかして偉い人なのだろうか。 …いや、それなら僕なんか拾わないだろう。 なら、僕と一緒に歩いているのをみられたくない人でもいるのだろうか。 例えば、恋人にこの生活を提供してもらっていて、僕のことは秘密にしてある、とか…。 その人は有名な人で、美人で性格も良くて、でも高級取りで、挙句アシュリーのことが大好きで… 一度考えると、そうとしか思えなくなる。 そしてもう一度彼のことを考えると、驚くほど綺麗な顔立ちに、拾った僕にここまで優しくしてくれる性格の良さ、すらりと高く手足の長いシルエット、頭も良さそうだ。 ちくり、と胸が傷む。考えれば考えるほど彼と一緒にいて迷惑なんじゃないかとおもう。そして、…なんだろう、何か違う感情もあるようなないような。 「テーオ、変なこと考えてない?それより早く行こう。」 声をかけられて、考えにふけり過ぎて呆然としていた自分に気づく。これ以上気にしない方がいいだろう、と思った。優しく笑う、その姿をとても美しいとおもう。 アシュリーはいつもとても素敵で、僕の命の恩人だ。それ以外、僕には関係ない。 被されたコートをボタンを留めしっかり着込むと、彼の後に続いて、3年ぶりの外に出た。 ドアを開けた途端に冷たい風が頬をかすめ、一瞬目をぎゅっと瞑ると、彼が笑って手を差し出してきたから、その手につられて一歩踏み出した。

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