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第11話

「わ、すごい。珍しい料理ばかりだ。」 クリスマスイブの夜はびっくりして欲しいからとアシュリーに部屋で待っているように言われ、できたと呼ばれてきてみれば机の上には数々の見慣れない料理が並んでいる。 中でも衝撃を受けたのは… 「このなんというか、グロテスクなのはなに?」 真ん中には足の形がはっきりと見える何かの丸焼きが乗っている。 …この形で出されると食べたくないな。 「七面鳥の丸焼き。子供は喜ぶって聞いたんだけど、テオはダメなのか。」 残念そうに言われて、反省する。自分のためにアシュリーが作った料理にグロテスクなんて言葉を使ったらダメだ。 よくみると表面がこんがり焼けていて切り分けて食べたら美味しそうだ。 「いや、初めて見たから驚いただけ。よくみれば切り分けて食べたら美味しそう。」 「よかった。」 なにをムキになっているのか子供、と言われたことを否定したくなった自分に嫌気がさす。 何を言っていいのかわからなくて言葉に詰まっていると、早く食べようとアシュリーが席に着いた。 「はい。」 「ありがとう。 あ、美味しい。」 アシュリーが切り分けてくれた肉を、口に運ぶ。 塩気の多い表面はパリッとしている。そしてその奥に歯が到達すると、中から肉汁が口中に広がり、とてもおいしい。 その肉汁の絡んだソースをつけたボイル野菜やポテトも、いくらでも食べられそうな出来だ。 「よかった。まあ、買ってきたのを焼いただけなんだけど、焼くのも結構大変だったんだ。 あ、パイも食べてみて。実はこれも焼いただけで、知り合いに焼く前の状態までは作ってもらったんだけどね。」 知り合い? 誰だろう、と思う。僕の知っているアシュリーの近くにいる人といえばノアくらいだが、それならノアの名前を出すだろう。 切り分けられた、なぜか生地がツリー型にくり抜かれたパイは、一口噛むとドライフルーツの甘さ、酸味やラム酒の香りがフワッと香る。 見た目でしょっぱいものだと勘違いしていたので驚いたが、サクサクのパイ生地とたっぷりドライフルーツの入った中身は、食感が楽しい。 野菜も、肉も美味しいけれど、甘いものが好きなのでこのパイが1番美味しいと思った。 お腹がいっぱいになるまで他愛もない話をしながら夢中で食べ続け、パイは半分、肉は3分の1程度を2人で食べきった。 それを覆いをして涼しいところに移すと、今度はドライフルーツのたっぷり入ったケーキが出てきた。紅茶と一緒に切り分けて出される。 「今日のメニューは全て初めて食べたけど、どれもすごく美味しい。」 ケーキはとても甘かったが、紅茶と合わせるとちょうどいい。すべて用意してくれた彼に、感謝を述べる。 ふと、リビングの端を見ると、小さなツリーの置物が置かれている。 これもアシュリーが用意したのだろうか。初めての経験だから、全て幸せだ。 僕が幸せに浸っているのに、アシュリーは感謝されたのになぜか悲しそうにしている。 今にもごめんと謝り出しそうな雰囲気。どうしたのだろう。何か言ってはいけないことを言ったのだろうか。 「そういえば今日は、テオにプレゼントがあるんだ。気に入ってもらえると嬉しいんだけど。」 雰囲気や表情は悲しげだが、口ではいつもと同じトーンで話す。そのギャップはなにを意味するんだろう。 というよりプレゼント?もらったけど…。 でも、逆にこれは自分も渡すチャンスではないか。 「あ、少し待って。部屋に用事があって。すぐ戻る。」 不思議そうな顔をする彼を横目に、部屋に戻って手袋の入った袋を取る。 ちゃんと手にあってるといいな。一応そうしたつもりでも、やはり渡す前になると不安になる。 アシュリーのAと手首のラインを黒で入れた、白い手袋。僕は彼に似合うと思ったけれど、彼のいつものセンスの良さをみていると、気に入ってもらえるか怖い。 テーブルに戻ると、アシュリーは高そうな小さな紙袋を机の上に乗せていた。 「テオ、どうしたの?」 とても緊張する。人にものを渡した経験なんてないから、喜んでもらえるかどうかがとても怖い。 「あの、これ。気に入らなかったら、捨てていい。 …いや、解いて自分で使うから、返して欲しい。」 袋を差し出すと、水色の瞳が丸く開いて、彼の驚きを物語っている。 「開けていい?」 きかれて首を縦に振る。彼に渡したものだから、どうしようと彼の自由だ。 でも目の前でいきなりいらないと言われるのは嫌だから、その場で返すのはできればやめて欲しい、と思う。 手袋が袋から丁寧に取り出され、彼がそれを両手にはめた。やはりよく似合っていると思う。きつくて入らなかったり、ゆるくて抜けてしまったりする心配はなさそうだ。 「すごい。これ、テオが作ったの?」 「うん。クリスマスプレゼントにもらった毛糸で作ってみた。」 アシュリーは驚いた顔をしていて、気に入ったのか気に入ってないのかや喜んでいるかなどはその表情からはわからない。 少なくとも嫌がってはいないことがわかって安心した。編んでいるときは自分の手と比べて指を長く編み過ぎたような気もしていたが、指の長さもちょうど良さそうだ。 「嬉しい。このAって文字も、俺のためにつけてくれたんだね。大切にするよ。」 愛おしそうに手袋を見つめながら、彼の頬は少し赤みがかっている気がする。よかった、喜んでくれたんだ。ちゃんと使ってもらえるといいな。 「テオ、じゃあ、これも開けてみて。」 彼の手元にあった小さい袋を差し出され、開けてみると中には小さい箱が入っていた。なんだろうと箱を開けてみると、 「これ…」 驚きのあまり声が漏れた。 「テオが欲しそうにしてたから。」 箱の中には、綺麗に加工された小さなアクアマリンが4つ入っていた。 そのままの状態でも綺麗だと思ったが、加工することでより綺麗に光が乱反射するようになり、思わず数秒間お礼も言わずに見惚れてしまった。 よくみると、小さいものと大きいものが規則的に2つずつ並んでいて、大きいものは雪の結晶のような形をしている。 手に取ってみると、小さいものと大きいものは小さく細い鎖で繋がっており、小さな方からは短い針状の突起が出ていた。 「テオに似合うと思ってピアスに加工してもらったんだけど、ピアスを開けるのは痛いだろうし、持ってくれているだけでいいんだ。ただ、テオに他に何かプレゼントを、と思った時にこれしか思いつかなくて。」 ピアス、か。よくみると、アシュリーの耳には、オレンジとブラウンの境目位の色の、これと似たようなピアスが煌めいている。 2つ繋がっているが、大きい方の石は雪の結晶の形ではなく三日月ような形だ。 「アシュリー、ピアスしてた?」 少し長めの金髪に隠れて見えなかったが、気づくといつもと少し違って見える。前からあった気がしない。 「これは、それと一緒に作ってもらったんだ。テオの瞳の色に似てると思って。だから今日初めてつけた。」 密かに欲しいと思っていたアシュリーの目の色の宝石をプレゼントしてもらえると思わなくて、高かっただろうに、とか、余計な心配をしてしまう。 でも、それより今度はアシュリーがあんなに綺麗な石を自分の目の色、と形容してくれたことや、それをピアスにしてつけてくれたことが嬉しい。頬が少し緩んでいくのが自分でもわかった。

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