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第13話
「ごめん、今日は一緒に出かけたいから起きて。」
朝日が昇るころにやっと眠りについたのに、朝8時にアシュリーの声がした気がして、昨日の光景がまた脳裏をよぎってぱっちりと目が覚めてしまう。
部屋についている鏡ごしに自分を見るとまだ目が開ききっていないのに、頭はすっきりと覚めていた。むしろ冴えすぎて色々とまた考え始めてしまう。
どこかに出かけると言っていた気がするので(まず今まで彼な起こされたことさえないので彼のことを考えすぎて聞いた空耳かもしれない)、一応顔を洗って歯を磨き、クローゼットの中を漁って前にアシュリーに着せてもらったコートに合う服を選ぶ。
洋服を脱ごうとするが部屋で着替えると寒すぎるので、暖炉の前で着替えることにして着替えを持って階段を降りる。
「おはよう。出かけるところって?」
アシュリーはもう支度も済ませ、やはりまた変装をしていた。見るのは数回目でもまったく慣れない。
「ちょっと、昨日のパイをくれた知り合いのところに。
少し顔色が悪いね。外出られそう?」
顔色…悪いか?朝自分で鏡を見たときは普通だったと思うけど。
しかし昨日よく寝られなかったのは事実なので、素直にその違いに気づいたというのならさすがだ。
「問題ない。すぐ着替える。」
暖炉のそばで服を温め、着替える。温かくて離れたくなくなってしまうので、素早く。
「終わった。」
「じゃあ、行こうか。」
コートを着て、前も履いたブーツを履いて外へ出る。そしてなんらかの違和感を覚えた。
何がおかしいのだろう。前と同じように繋いだ手、変装したアシュリー、家から出て歩く道さえも、同じだ。…耳元のピアス?…でもないか。
彼の手に引かれ、商店街を抜け、その先へ進んでいく。そして、おかしさの意味に気づいた。
アシュリーがさっきから一度も話していないのだ。そしてなんとなく彼の歩く速さも前と比べて遅い気がする。
昨日のこともありなんとなく彼と目を合わせるのを避けていたのだが、まったく彼の顔が見えなかったのは自分が避けていたせいだけではないだろう。
「アシュリー、こっち向いて。」
「え?あ、ああ…。」
彼は決まり悪そうにこっちを向くと、すぐに違う方を向こうとした。僕はそれに構わず両頬にしっかり手を当てて固定し、じっと顔覗き込む。
「…どうして泣いてるの。」
真っ赤に腫れた目は、寒さのせいだと思う主張するには大げさすぎる。おまけに頬にはくっきり涙痕があり、心なしか目元が潤んでいる。
「結構ピアスが痛くて。」
「昨日は痛そうじゃなかった。」
「寝ている間に結構擦れたみたいで。」
「そんなに寝相悪くないでしょ?」
「寒くて。」
「いきなり変えたってことはさっきのは嘘?」
「…ごめん。」
俯いて謝られても、何を謝られているのかわからない。
その理由を嘘でごまかすようなことで泣いていたのだ。嘘をついたことにあやまったのか、僕に言えないからあやまったことなのか。
「ついた先で、話すから。」
そう告げる声は震えているように感じて、それ以上何も言えなくなった。静かに雪が降り注ぐ中で、アシュリーの手に引かれながら、無言でゆっくりと歩いていく。
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