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第34話
「んー、どうやったらこんな風になるんだろ… 」
目の前にある、アシュリーがよく羽織っている薄手の上着を見てため息をついた。
最近、洋服を作るのにはまっている。というのも、きっかけはアシュリーが家事を半分やるようになり、余裕ができたことだった。
話は付き合って1ヶ月のころに遡る。
アシュリーがいる日にいきなり、家事をやっていた時間が半分手に入り、暇をどう潰そうかと勉強の復習をしていた。
しかしアシュリーに生きるのに必要なことはもうだいたいやったから大丈夫だよと言われ、本当に何もすることがなくなってしまったのだ。
実際研究で食べていくような脳は僕にはなく、勉強もアシュリーとするのは好きでも自分からするのはそこまで得意ではなかった。
あまり何もしてない時間が長いと、どうしてか申し訳なくなってしまう。本当は仕事をしたいとも考えたが、アシュリーに何か聞くとお金足りなかった?と悲しそうに言われるだけで、かえって申し訳なくなってやめた。
「どうしたの?テオ。何かまた考え込んでいるね。」
アシュリーはいつも僕の変化に聡い。
暇が余っているから何かしたいなんてわがままをごまかそうと思ってテキトーなことを言ったら、逆に怪しまれて心配されてしまうし。
そして結局ほんとうのことをいってしまったのだ。するとなぜかその一週間後にはミシンと布と裁縫の本、その他諸々が家に運ばれてきた。
というわけで洋裁に挑戦し始めた。もともと編み物が好きだったため、編み物より色々なものが作れるのが楽しくなり、だんだん暇を見つけては作るようになった。
そして、今に至る。春から初夏の少し肌寒い日に着る薄手の上着を作ってみたくなり、アシュリーの服を借りたというわけだ。
この服のシルエットが好きだ。これはベージュだけど、紺色で似たようなものを作って、胸ポケットを付けて下の方にラインを入れれば、もっとかっこよくなると思う。
でも、こんなに緻密に計算された型を見ただけで真似することなど不可能だ。これまでは本に入っていた型紙を使っていたから、どうしていいかわからない。
「俺の上着を見つめて何してるの?」
後ろを振り向くと、アシュリーがいた。ノックしたんだけど返事がないから、と苦笑いする彼に、気づかなくてごめんと謝る。
「この綺麗なシルエットがどうやったら出せるのか考えてた。」
「じゃあ分解してみればいいんじゃない?」
「!?
…いや、絶対できない。」
目の前の服を見ると、明らかに高そうだ。何かのブランドのロゴも入っている。
これを分解?
無理だ。罪悪感が募る。
「縫い目に合わせて解けばいい?」
いとも簡単に分解という言葉を口に出した彼は、すでにリッパーをもち糸を切ろうとしている。
「ま、待って。そんな高そうなもの、分解できない。第一戻せない、、、。」
「戻さなくていいよ。テオの役に立つならそれで嬉しい。」
止めに入るももうぷちぷちと糸が切れる音が聞こえてくる。ああ、そんなに一気に解いたらわからなくなる、、、
言葉通り僕のためなら彼は大体なんでもしてしまう。ときにここまで大胆なこともするので、嫌ではないが申し訳なくなることがある。
「自分でやる。やります。だからそれをください。」
慌ててついそう口に出すと、彼はやっと手を止めて微笑んでくれた。
「うん、いいよ。」
そして分解して型紙を取ると、もう一度縫い合わせ始める。流石にこのまま置いておいていい服じゃないし、、、。
「これ、ありがとう。」
2日後、すっかり元どおり、、、とまでは行かず縫い目がまあまあはみ出てしまったが、なんとか元に近い形に戻した上着をアシュリーに返した。
「結局分解しなかったの?」
「いや、分解したあともう一回塗ったから、縫い目が汚くなった。ごめんなさい。」
「御免なさいじゃないよね?」
「ありがとう」
「どういたしまして。これ、全然分解したとかわからないね。元とそっくりだ。」
驚いたように言われると、本音だとわかって少し嬉しい。実際は結構やらかしてるけど。
一週間かけてなんとか理想の形に仕上がった上着は、アシュリーに着て欲しくて迷惑なだけかも知らないけれどプレゼントした。
「すごい。テオほんと器用だね。どんどん上手になる。」
彼はとても喜んで、その日からよくそれを着てくれるようになった。こんな風に喜んでもらえるのはとても嬉しい。
その後から、もう着れなくなった服をアシュリーにもらい、アレンジしたり、分解して型紙を取ってみたりといろいろ遊びの幅が広がった。
何もしないでダラダラとする暇な時間はなくなったけれど、裁縫をしている時間は本当に楽しい。趣味って素晴らしいと思った。
アシュリーと一緒にいない日でも、日常生活を楽しみにしてくれる。
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