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第38話
アシュリー → ノア → カルロさん → ノア → アシュリー
というかなり面倒臭い経路を辿ったにもかかわらず、アシュリーに返事をしておくよと言われた3日後には、次の月曜日に一度おいでとカルロさんからの伝言が伝わってきた。
そして今日がその月曜日だ。
スーツで来てと言われたので、アシュリーに相談してスーツを貸してもらった。
そのスーツは彼に合わせて仕立てられたものだ。だから僕には全てにおいて丈が長い。
あまりに素敵だから着てみてとせがんで一度アシュリーに着てもらったあとかっこよすぎてそのまま唖然としていた。
それをみた彼に可愛いと囁かれだ挙句、スーツ姿の彼に求められ、気持ちいいけれど目に刺激が強すぎて固まってしまったことが、記憶に新しい。
緊張しながら開店前のお店のドアを叩く。本当に僕なんかが入っていいのだろうか?
ガチャ、と音がしてドアが開くと、カルロさんが出迎えてくれた。
「よく来てくれましたね。」
微笑みながら中に入ってという彼の歩き方は、やはり舞うように美しい。
相変わらずぴったりと彼に合うスーツは、昨日はグレーだったが、今日はブラックだ。よく見ると縦縞が入っていて、スッキリと見える。
「敬語、使わないでください。」
「じゃあテオ、そこに座って、今日は僕が指示を出すからその通りに縫い合わせてくれる?
ミシンで縫うところは業者に頼んでいるんだけど、やっぱり細かいところは手縫いの方がいいから。
これ、昔僕が使っていたノート。もしわからない縫い方とかがあったら、そこに図が描いてあるからそれも併せて参考にしてほしい。もちろん僕にも聞いてね。」
渡されたノートをパラパラとめくると、綺麗な字とわかりやすい図で縫い方の名前とその縫い方がかかれていた。
「わかりました。」
「じゃあ早速ここを、この線に沿って縫い合わせてほしい。仕上がりはこれと同じくらいがいい。」
そう言うと、彼は自分の着ているジャケットを脱いで、僕に手渡した。その部分を見てみると、とても綺麗な仕事だ。
こんなに綺麗にはきっとできないけれど、なるべく近づけようと丁寧に縫っていく。
「やっぱり丁寧だね。そして器用だ。」
そのまま縫い進めて、と言う横にいる彼は、こちらをみながら僕の2倍くらいの速さで自分も違う部分を縫い合わせている。職人技だ。
そしてとてもテキパキとしているはずなのに、全ての所作が滑らかに見えてしまうところが不思議だ。
せめて自分もできるだけのことはやろうと、精一杯丁寧に、それでも早く縫えるように心がける。
ところどころ細かい注意を受けたので、紙をもらってメモを取った。家に帰った後もう一度練習しよう。
気づけばもう来てから6時間を回っている。お昼か朝か微妙な時間の食事をとってから来たから、少しお腹がすいてきてやっと時間が経っていることに気づいた。
「そろそろ今日は終わりにしようか。やっぱり2人いると仕事が速いね。
違うか。テオの飲み込みが速くて仕事が丁寧だからだね。」
少しずつだけど形になっていくのが嬉しいし、カルロさんのアドバイスはわかりやすく的確で、自分で考えて縫うよりもずっと綺麗に仕上げることができる。
そして褒めてもらえると嬉しい。
「そんな、ありがとうございます。」
謙遜はときに失礼だから、素直にお礼を言う。
「あしたはアシュリーさんの仕事は?」
彼はまだ仕事を続けるのだろうか、僕が作業していたところだけ片付けながらそう聞かれた。そうか、ノアはアシュリーの話までこの人にしているのか。
やっぱり何か特別な人なのかな、と思う。
「えっと、明日は朝から夜までです。」
「じゃあ、明日も今日と同じ時間に来てくれる?」
「はい。今日はお世話になりました。」
「こちらこそ。」
カルロさんの手伝いは趣味でやっているよりずっと楽しい。作っているものが自分で作るものより理想形だからだろうか。
明日も、と言われた言葉が嬉しい。楽しみだな、と思いながら、まだ少し明るいオレンジ色の空の下、帰り道を歩いた。
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