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第39話
カルロさんのお店での仕事にも慣れてきて、最近ではお客さんの採寸も担当するようになった。
数ヶ月働いてわかったことは、彼に依頼をする人は多く今でもいくつかの依頼を断っている状況で、雑誌の依頼や大きな賞の受賞などを全て断っているということ。
カルロさんは人からの評価に無頓着だ。ただ自分が求める形の洋服を作るためや理想の自分であるために、努力を惜しまない。
だからよく、「この服をこの人に着て欲しい、というのは、僕のエゴなんだよ。」などと言っていた。
僕のことは気に入ってくれたようで、いつかはデザインも任せたいと言ってくれている。
今日は1月1日で、今日を境に僕は数えで18、つまり成人した。アシュリーとの約束はもう満たしたのだ。なのに…
「はぁー、、、」
「どうしたの?悩み事?」
心の中でついたはずのため息が口に出てしまったようで、隣で作業をしていたカルロさんがゆっくりとこっちを振り向く。
全く驚く様子はなく、優しく微笑みかけてくれた。
「あ、違うんです。…いや、そうですが、ため息は心の中でついたつもりでした、、、。ごめんなさい。」
「大丈夫、気にしないよ。でも、ずっと静かにしてると疲れるし、この後お客さんも来ない。
もしよければ何があったか教えて。」
そう言う彼も、普段はよく世間話をしたり黙々と作業をしているが、今日はなぜか上の空でとりあえず何か話してくれ、と言う顔をしている。
まあ、カルロさんなら少しくらいは話してもいいか。
彼はアシュリーと僕のことを知っている。ノアが突然言い出したことで、アシュリーと僕とノアとカルロさんでクリスマスの夕食を一緒に食べたからだ。
カルロさんはアシュリーの並外れて美しい容姿に驚いていたが、ただ驚いただけ、という感じだった。
そしてこの人に自分の着て欲しい服を着てもらえるなんて幸せだね、と僕に耳打ちしてきて顔を真っ赤にしたのは別の話だ。
「アシュリーって、僕のこと好きだと思いますか?」
試しに聞いてみる。
「好きを通り越してそこはかとない愛を感じたよ。なんだ、そんなこと? 」
「ですよね… 」
そう、そんなこと、なんだけど、、、。
今日アシュリーは夜も仕事で、帰ってくるのは明日の朝、そして明日も夕方から仕事に行ってしまうと言っていた。
そんなにしたいしたい、と思っていたわけではないが、てっきり成人したらその日にお祝いでもして本番をするのだと思っていたから、不安になる。
もしかしたら僕じゃない人を好きになったとか、もしくはやっぱり僕じゃダメだった、とか。疑いたくもないのに、自信のない自分はどうしてもそんなことを考えてしまうから嫌になる。
なんて、そこまではカルロさんには言えないけれど。
「ねえ、質問していい? 」
指示された作業を終えた僕に次の作業を指示しながら自分でも作業をしながら彼が聞いてきた。
「なんですか?」
アシュリーと付き合っていることがわれている以上、バレて困ることはない。
「テオは男の人が好きなの?」
予想外の質問に戸惑う。なんて答えればいいんだろう。僕はアシュリーのことは好きだけど、彼以外の男性をみてドキドキすることはない。
「正直女の人は苦手で好きにはなれませんが、、、。
多分、男性が好きというよりは、アシュリーが好きなんだと思います。
彼以外を恋愛対象に見たことはないです。」
考えながらゆっくり時間をかけて答えた。上手に伝えられたかどうかはわからない。
「僕も言われてみたいな、そんなこと。」
彼は手を止めてゆっくりと空を仰いだ。その横顔の、少し下げたまぶたやすがるような目、ゆるく開いた唇などは、ひどく儚げに映る。
「でも、そう言われたい相手は僕じゃないでしょう?」
「よくわかってるね。」
そう言うと、彼はうっすらと口角を上げる。ずっと一緒にいると、いやでもわかってしまう。
「わかりますよ。」
そしてまた、静かな時間が流れる。時々指示を聴きながら黙々と作業をしている間は、何もかも忘れることができた。
アシュリーのことも、きっと考えすぎだ。特に理由もないのだろう。むしろそんなことばかり考えている自分が恥ずかしい。
夜になり家に帰ると、誰もいない家はひんやりと冷たい。18になっても寂しいだなんて、自分はいつまでも子供だな、と情けなくなる。
行く前に作っていたスープを温めてパンと一緒に食べて、少し編み物をしてベッドに入った。
最近アシュリーと頻繁に一緒に寝ているから、1人のベッドを寂しくて冷たいと感じる。多分まだグダグダとくだらないことで悩んでいるから、そのせいもあるかもしれない。
寝なければと思うほどに冴える目が憎らしい。
ため息をつき、同じ建物の中にいるのに遠いいなと、窓の外の星を数え始めた。
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