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第4話 僕の大切な人

大きな岩を背にズルズルと座り込み、空を仰いで荒い呼吸を繰り返す。 腹を抑えた手の隙間からは、止まることなく血が溢れ出ている。 「はぁ…ヘマしちゃったなぁ…。でもブルーが無事だからいっか…」 僕はそうポツリと零すと、大きく息を吐いて目を閉じた。 街から離れた山の麓にリンリーが現れたとの通報を受けて、本部にいた僕とブルー、オニキス、グリーン、パールホワイト、レインボー、アクアマリン、クリスタルで現場へと向かった。 かなりの数のリンリーに対してこちらは8人。1人で数十体を相手にしなければならない。 だけどそこは戦い慣れたレンジャー達だ。必殺技を繰り出して容易くリンリーを倒していく。 時には仲間を手助けしながら、確実にリンリーを減らしていった。 「雑魚のリンリーを倒すことなど簡単だ」 そんな思いで油断していたから、隙が出来ていたのだろう。 僕とブルーで共闘してリンリーをなぎ倒し、顔を見合わせて「帰ったらお疲れ様セックスだな」と笑っていたその時、ブルーの背後に倒れていた一体が、素早く起き上がってこちらに突進して来た。 この時僕は、何も考えていなかったんだ。 考えるまでもなく自然と身体が動いて、ブルーを突き飛ばしていた。 そして僕の眼前に立つリンリーを、一瞬で燃やし尽くす。炭となって消えていく姿には見向きもせずに、僕はブルーを振り返った。 「ブルー…、ごめん。思いっきり押しちゃったけど、大丈夫?」 「あ、ああ…、大丈夫だ。レッドは…」 「僕は大丈夫だよ。ふふ、油断しちゃったね。次からは気をつけようね。…あ、僕、姿が見えないオニキスとグリーンが心配だから捜してくるね」 「あっ!おいっ、レッド待て…っ」 僕を呼び止めるブルーの声を無視して、急いでその場から離れる。 ブルーに気づかれちゃいけない。 心配をかけさせたくない。 自分のせいだと苦しめたくない。 僕の命はブルーの物なんだから、何も気にしなくていいのに、優しいブルーはきっと自分を責めてしまう。 だから僕は、出来るだけ早くブルーから離れて、ブルーから見えないように大きな岩の影に隠れた。 咄嗟にブルーを押した直後、突進してきたリンリーに僕は腹を刺された。 リンリーの指先から伸びる尖った剣先が、僕の脇腹に吸い込まれるように入ってきた。 でも僕は、表情一つ変えずに、掌から出した炎でリンリーを消し炭にした。 僕のユニフォームは、名前と同じ赤色だ。赤色は特に好きでもなんでもなかったけど、支給されたから何となく着ていた。 でも、今日ほど赤色で良かったと思ったことはない。 だって、血と同じ色だから。僕の血を誤魔化してくれるから。 僕の大好きなブルーが傷つかなくて良かった。彼に何かあれば、僕は生きてはいられない。 でも僕がいなくても、ブルーは大丈夫だ。 かっこよくて優しくて。規格外の大きなモノを持っていて。すぐに、新しい恋人が出来るだろう。 本当は寂しいけど、ブルーが幸せになるならいいや…。 僕を暗闇から救ってくれたブルー。 僕が唯一愛したブルー。 今までありがとう。 腹を押さえていた手がだらりと下がる。 全身の力が抜けて、僕の身体がゆっくりと崩れ落ちた。 唇に少しヒヤリとした物が触れて、まつ毛を震わせながら、ゆっくりと瞼を開けた。 数回瞬きをして、目の焦点を合わせる。 すぐ目の前に、泣きそうな顔をした…。 「…ブルー…?」 掠れた微かな声だったけど、僕の声を聞いたブルーが、ひどく顔を歪めて「この…バカっ!!」と怒鳴った。 僕の鼻の奥がツンと切なくなって、目尻を熱いものが流れ落ちていく。 「ご…ごめん…。僕、ブルーを…守りたかった、から…」 「俺を守るためにおまえが傷ついてたら意味がねぇっ」 「でも…っ、僕が死んだら、ブルーは新しい…恋人を…っ」 「はあっ?おまえ…ほんっとにバカだな!俺の恋人はおまえだろうがっ」 「だってそれはっ、…僕が無理矢理に…」 はあっ…と大きな溜息を吐いて、ブルーが僕の頬に流れる涙を両手で拭う。 「俺は、人に頼まれて恋人を作ったりしない。俺は、おまえが好きだから、愛しいと思ったから、恋人になったんだ。…青白い顔で倒れているおまえを見つけた時の、俺の気持ちがわかるか?おまえの鼓動が動いてなかったら、即座に後を追うつもりでいた」 「…うっ、ひぅ…っ」 「おまえを抱きしめて動かない俺の代わりに、オニキスが診てくれたんだ。『すぐに治療すれば助かる』と言われて、グリーンには『しっかりしろ!』と怒られて、慌てておまえを連れ帰った。傷を塞いでもう大丈夫だと言われたのに、いつまでも目を覚まさないから、生きた心地がしなかった…」 「ふぅっ、ぐすっ…、ご、ごめん…っ」 「レッド、もう二度と無茶はするなよ。おまえがいない世界で、俺は生きていけない」 「う…うんっ、うんっ…」 「レッド、こっち見て」 「…んぅ?」 僕の顔を挟むブルーの手に顔を上げさせられて、ブルーを見る。 涙でぼやけていたからよくわからなかったけど、ブルーの瞳が潤んでいるように見えた。 ブルーが僕をまっすぐに見て、静かに囁く。 「レッド、愛してる。俺の傍を離れるなよ」 「う…うんっ。僕も!僕も…愛してるっ!」 そう叫んでブルーの首に抱きつく。 傷口が痛かったけど、そんな事よりも嬉しくて嬉しくて、僕は強く唇を押しつけた。 その後、「いた…いたた…っ」と零しながら、ブルーの規格外のモノを受け入れて身体を揺すられた僕は、保健委員のピンクにこっぴどく怒られることになる。

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