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ちんリウム・ライジング

※140字SS「大嫌い、が恋の始まり」のフルverです。 https://fujossy.jp/books/11071/stories/219538 +++++ 俺は、できそこないだった。 誇り高きム・ナーゲ族の長のひとり息子。 それが、俺だ。 父の胸毛は、衣服の上からもその茂みの存在が容易にわかるくらい濃かった。 その父の面影を色濃く受け継いだ俺に、皆が父以上の濃いム・ナーゲを期待した。 もちろん、俺自身も。 でも、何年経っても俺の胸にはたった一本の毛も生えてこなかった。 やがて父が死に、俺は叔父の家に預けられた。 父の兄に当たるその男は、弟にもかかわらず族長の座に就いた父を恨んでいた。 そんなの、父上の方ができた人間だったというだけなのに。 叔父は、俺を虐め抜いた。 俺より優れた身体能力を駆使して、俺を痛めつけた。 俺より豊富な知識を活かして、俺を罵倒した。 俺のより遥かに大きくそれを、俺の穴に捩じ込もうとした。 俺はその醜い欲望を渾身の力を込めて蹴り上げ、逃げた。 大人はみんな、腐ってる。 大人なんて信じない。 大人なんてみんな、 くそくらえだ。 *** 今日も腹の虫が騒ぐ音で目が覚めた。 最後に食事をしたのは、いつだっただろう。 覚えていない。 それでも、今朝はまだマシだ。 雨雲が去ってくれたから、濡れずに済んだ。 街を彷徨い、ごみ箱を漁る。 行き交う大人たちは、誰ひとりとして俺の存在に気づかない。 残飯として捨てられたゴミの中から、食べられそうなものを探す。 どうやら今日はラッキーな日らしい。 まったく手のつけられていないパンを見つけた。 急いで頬張ると粉のにおいが鼻腔をくすぐる。 懐かしい。 父上と向かい合って食べた朝食を思い出す。 遠い昔の思い出。 もう二度と現実にならない、ただの思い出。 ドンッ! 身体が激しい衝撃に喘ぎ、手から齧りかけのパンが落ちた。 胸が焼けるように痛い。 しまった。 油断した。 忘れていた。 この街の治安を守る、リンリーの存在を。 リンリーが、なにか得体のしれない言葉を発しながらゆっくりと近づいてくる。 頭の中は逃げろ逃げろと危険信号を発しているのに、身体が動かない。 焼かれた胸が痛い。 そうか。 俺はここで死ぬのか。 でも、それならそれでいい。 父上。 大好きな父上。 もう、会いに行ってもいいですか――? カアアァァッ! 辺りを、眩しい光が包み込んだ。 思わず目を瞑り、開いた時にはリンリーの身体が消し飛んでいた。 醜い塵が風に流れ、翻ったのは漆黒のマント。 「大丈夫かい、坊や?」 坊や、だと? 「俺にさわるな!……っつ」 「怪我をしているのかい?」 仮面に隠されていない口元が、心配そうに歪んだ。 マントをたなびかせながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。 その隙間から剥き出しの股間が見え、思わず同じだけの距離を後ずさった。 「大丈夫、怖がらないで。怪しい者じゃない」 にやりと笑いながら、仮面の男がでかいそれを揺らしながら近づいてくる。 まるで、あの夜の叔父のように。 「く、来るな!」 踵を返して逃げ出そうとして、膝から崩れ落ちた。 地面を打った身体が、すぐにひっくり返される。 仮面の奥からふたつの瞳が、布を失い露わになった胸元を凝視していた。 「み、見ないで」 「え……?」 わかっている。 この男は、俺の怪我を確認しているだけ。 でも、だめだ。 ム・ナーゲのない胸なんて見られたくない。 バレてしまう。 俺が、できそこないだとバレてしまう! 「おねがい、みないで……!」 「君はまさか……うぁ」 ドン、と鈍い音がして、仮面の男が呻いた。 黒い背中越しに、新たに出現したリンリーがこちらを見ている。 「くっ……!」 漆黒の広い背中が、俺の視界を覆った。 「うっ……!」 ……どうして。 「つ……!」 どうして、俺なんか庇うの。 「……やめて」 胸毛のないム・ナーゲ族なんて、生きてる意味なんてないのに! 「もうやめて……!」 「ブラックお待たせ!」 赤い影が、地面に降り立った。 「遅いよ、レッド」 「ごめん、ちょっとブルーと……って、その子大丈夫?」 「火傷は酷いけど、意識はあるよ」 「わかった。じゃあレインボーに基地(ベース)まで運んでもらうね」 仮面の男が、そっと俺の身体を抱き上げた。 「これからは私が君を守るよ、ローゼオン」 「俺の名前、どうして……」 「さあ、どうしてかな?」 仮面の男。 あなたは、一体――? 「ブラック、急いで。リンリーたちに嗅ぎつけられた」 「わかった」 ブラックと呼ばれたその人は、そっと俺の身体を下ろした。 支えてくれたのは、一頭のユニコーン。 「その子を頼んだよ、レインボー!」 「ま、待って!」 俺の言葉を遮るように、黒いマントがはためく。 剥き出しの股間にぶら下がっていた大きなそれが、むくむくと起ち上がり始めた。 徐々に黄色く輝き始めるでかちんこ。 「私の名は、変態ブラック。また会おう!」 そして世界は、閃光に包まれた。 fin

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