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第7話

 数分後。  肩で息をしている箱根が、教室に戻って来た。 「ハァ、ハ……ッ! か、買ってきたぞ……クソッたれ……ッ!」 「おう、お疲れ」  箱根から牛乳を受け取り、俺はすぐにストローを刺して、飲み始める。 「よし……ッ! 約束通り見てもらうぞ、登坂!」  そう言うや否や。  箱根は紙の束から、迷いなく表紙を含めた六枚の紙を抜き取った。  それがきっと、牛乳を走って買いに行っている間に決めた五つのプレゼンなのだろう。……もしかして、百枚ある紙のどこにどの内容が書いてあるのか、覚えているのか?  箱根は目をギラギラと輝かせて、プレゼン資料を紙芝居のような感覚で俺に見せてきた。 「それじゃあお待ちかね、登坂霧もイチ──」 「タイトルはもういい」 「あ、おう……」  箱根はしょげた様子で、表紙を手に取る。 「最初はインパクト重視に……これだッ!」  そう言って、箱根は表紙をめくった。  そこに書いてあったのは……。 『新品だから性病感染のリスクが低い!』  目を疑うような、一文だった。 「──帰る」 「待て待て待ってくれ!」  ははっ、冷静になれよ、俺。疑うべきは【俺の目】ではなく【箱根の頭】だろう?  そう思い立ち上がろうとした俺のブレザーの裾を、箱根が素早く掴んでくる。  俺は呆れたような顔をして、情けなくしがみついてくる箱根を見た。 「お前な。人が真面目に聞いてやろうと思えば……はぁ……っ」 「違ぇんだよ! これはインパクト重視なだけで! 次! 次は普通だから! マジで!」 「へぇ」  このままだといつまで経っても裾を離してくれそうにない箱根を見て、仕方なく姿勢を戻す。  箱根はホッとした様子で俺のブレザーの裾から手を離し、一枚目の紙をめくろうとした。 「スタートから不発だっつぅのには驚いたが、次はきっとギュンとくるぜ!」  どうやら『インパクト重視』と言ったのは咄嗟に思い付いたデマカセだったようだ。やはりどうして、その一文で俺を落とせると思ったのか……疑問でしかない。  箱根は目をギラギラさせながら、自信満々に紙をめくる。 『犬のようにいつでも一緒にいてやる!』  へぇ、なるほど。ここで俺が【犬派】って情報が活用されるのか。へぇ、ふぅん……?  ……でも、なぁ。 「──ただのストーカーってことだろ」 「くっ、そうくんのかッ!」  俺の指摘に、箱根は悔しそうな声で呻いた。その反応を見るに、この内容も不発だったと理解したんだろう。 「はっ、なかなかやるじゃねぇか……! さすが、このオレが惚れた男だな!」 「そりゃどうも」 「よし! 次だッ!」  そう言って、箱根は早々に紙をめくった。

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