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第8話
ここで、やっと正統派なプレゼン内容になったようだ。
『色んな場所に詳しい!(近場以外もだ!)』
俺は感心して、思わず感嘆の声を漏らす。
「へぇ……」
その声にすぐさま気付いた箱根は、嬉しそうに口角を上げた。
「お? これはなかなか好印象じゃねぇか?」
「あぁ、意外と。……俺、外出とか全然しないからさ。素直に感心した」
「そ、そうか? ……ハハッ!」
俺に褒められたのが嬉しいのか、箱根は照れたようにはにかんでいる。
──それゆえに、油断したようだ。
「なぁ、箱根。例えば、どういうところに詳しいんだ?」
「登坂の方から、そんなグイグイくるなんて……ッ! ゴホンゴホンッ! まずは、スーパーに薬局だろ?」
「高校生が薬局? 意外な選択だな。……他は?」
「その他には、人気のねぇ路地裏とか公園とか……あと、基本情報だがホテルの場所だな!」
──あっさりと、ボロを出す。
箱根の情報網の偏りに気付くと、俺はこれ見よがしに……。
──深い溜め息を、吐いてみせた。
「はぁ……っ。……お前、ほんと…………はぁ……っ」
「なっ、なんだよッ! マジで詳しいんだぞ、オレ!」
「全部【性交】関係だろ」
気付かないとでも思っていたのか、箱根の頬がひくつく。
……残り、二枚。俺は呆れ顔で、箱根を見た。
「もう少し正統派な内容はないのか?」
「いや、まぁ……一応? 次のはド直球な内容なんだけどよ……」
さっきまでの威勢はどこへやら。箱根は俺の問い掛けに対して、答えを言い淀んでいる。
俺は小首を傾げて、眉間にシワを寄せた。
「なんだよ、言えないのか?」
「その仕草カワイイな、切り揃えた髪の揺れが最高にそそる……ッ! ……じゃなくて! 言ったら、登坂が怒る気がしてきたっつぅか……」
ハッキリしない様子の箱根に対して、俺が不信感を募らせるのも無理はないだろう。
箱根に限って、俺を馬鹿にするようなことを言ってきたりはしないはずだ。……まさか、俺の怒りの沸点をなにかしら勘違いされているのか? それは心外だな。
「箱根」
俺はさっき箱根に買ってこさせた牛乳を、見せ付けるように持った。
「俺はそんなに怒りっぽくない。このカルシウムに誓ってやる」
「登坂……っ! だ、だけどよ──」
「もう半分終わったんだ。最後まで言えよ」
そう言って、箱根を促す。
カルシウムを摂っているとアピールするために、牛乳を一気に飲み干す。
すると、そんな俺を見ていた箱根は、少し逡巡した様子を見せた。
……が、やがて決心がついたのか。
──紙を、強く持った。
「……分かった。じゃあ、見てくれ登坂」
そう言い、箱根は紙をめくる。
『身長差が十五センチ!(キスに最適だ!)』
俺は空になった牛乳パックを、力一杯握り潰した。
「──あぁなるほど完ッ全に理解したわ」
その様子を見て、箱根が驚いたように俺を見て、怒鳴る。
「イヤイヤイヤ! お前、さっき『カルシウムに誓ってやる』って言ったよなッ!」
「怒らないとは言ってない」
「理不尽ッ!」
俺は鋭く、箱根を睨み付けた。
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