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豹変
「電話の相手は?」
声色も怖いくらい低い。
「おじちゃん!」
メモに書こうとしたら一太が代わりに答えてくれた。
「たく、こんなところまで電話して。息子のデートの邪魔をしないでほしいのに」
ぶつぶつと独り言を口にしながら、お握りを頬張った。太一はじゃあね、ばいばいねと笑顔で手を振りようやく電話が切れた。
「一太、何の話しだったんだ?」
「えっとぉ・・・ないちょ」
お握りと、唐揚げが刺さったピックを両手で掴み、もぐもぐと美味しそうに頬張る一太。
「教えてよ」
「いちた、おじちゃんとやくそくしたの。まま、おちゃちょうだい!」
颯人さんが何度聞き返しても、一太は電話の相手が卯月さんで、何のお話しをしていたか一切教えようとはしなかった。
「頑固なのはママ似かな?」
それにはさすがの颯人さんも苦笑いしていた。
「まま、かぁいい!」
午後からまた園内を回り、動物と触れ合えるコーナーでは、はじめて触れるうさぎに大興奮。黄色い歓声を上げていた。
颯人さんは。というと、三十分おきぐらいに電話が掛かってきて、画面を見るたび、深い溜め息を吐いていた。
一太が、「はやとにぃしゃん!」と声を掛けても、心ここにあらず。そんな感じで。
「いちたがきらいの?」
しまいには半べそかかれ、不貞腐れる一太の機嫌をなんとか直そうと四苦八苦する姿がとてもおかしくて。笑ったら失礼かなと思い必死で堪えた。
「一太も、ママも大好きだよ」
「ほんと?」
「あぁ」
颯人さんが一太の脇に腕を入れ、抱き上げてくれた。
「だから、ママと結婚するんだろ?一太は、その・・・弟と妹、どっちが欲しい?」
「妹!」
「そうか」
破顔し即答した息子に、颯人さんはにんまりと口角を上げた。
薄笑いし、冷笑し。
氷のように冷たいもう1つの顔を垣間見た気がして、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
今、伝えないと。
メモ帳を出そうとポケットに手を入れた時だった。手首をがしっと掴まれたのは。
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