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新しい生活のはじまり
「性的嗜好は人それぞれですし、私も卯月もそれに関しては一切偏見をもっていません。だから、未知さんが誰とお付き合いされようが口を挟みません。でも彼だけは・・・彼は卯月の同業者である手嶌組の幹部と手を組み、特殊詐欺や薬物密売に深く関わっていると噂のある男です。一太くんを連れ去ったのも手嶌組の構成員です」
橘さんは怖いくらい落ち着いていた。
「一太くんを男から取り返すのに、卯月は、あなたを自分のイロと、その場しのぎの嘘を付きました。一太くんが卯月になついていたから、男も他の構成員も信じたようです。その時、未知さんが両性具有で、一太くんの父親に頼まれただけだ、そう言ってましてね・・・」
そこで一旦言葉を止める橘さん。突き刺さる視線が痛い。
兄弟だと嘘を付きたくてついた訳じゃない。ただ言えなかっただけ。
一太の出生に関わること・・・
お兄ちゃんのこと・・・
両性具有のこと・・・
会ったばかりで。
お互いのこと全然知らないのに。
全部言える訳ないのに。
「気持ちの整理がついたらでいいですよ。卯月は、あなたがちゃんと説明してくれるのを待っていると言ってますし。それまで、ここで、卯月のイロ、つまり、愛人として暮らしてもらいます。話しの辻褄を合わせないと、のちのち少々面倒なので。別に断っても構いませんよ。ここを出た瞬間、手嶌組に連れ去られる覚悟があなたにあるなら、ですが・・・あと、一太くんのことはご心配なく。卯月が自分の息子として責任を持って育てますから」
脅しともとれる彼の言葉。
太一を、息子を置き去りにするなんて出来る訳ないもの。
「あくまでフリをしていただければいいんです。あなたみたいな子供に手を出さなくても、卯月には妻がいますし、他にもお付き合いされている方が何人かいますから。さぁ、ご飯にしましょう」
橘さんはすっと立ち上がると、そのまま台所に向かった。
だよね、あれだけ子供好きなんだもの。
自分の子供にだって優しくて面倒見がいいに決まってる。奥さん、キレイな人なんだろうなきっと。
彼に家庭があることを知って、なぜか、心がチクリと傷んだ。
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