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新しい生活のはじまり

卯月さんはなかなか帰ってこなかった。こんなにも長い時間一太と離れた事がないから、携帯を握りしめ、そわそわしながら、ウロウロしながら帰りをただひたすら待つしかなくて。 茨木さんに無断欠勤してすみませんでした、とメールをしたら、卯月さんが事情を説明しに、一太を伴いお店に来たことを教えてもらった。 『知らなかった事とはいえ、すまなかった。未知にも、一太にも怪我がなくて本当に良かった。卯月さんにしばらくの間、匿って貰うといい』 茨木さんとやり取りしていたら、橘さんが部屋に入ってきた。 「いいですよ、続けてて。ご自宅の様子を若い衆に命じ見てきて貰いました。手嶌組が見張っていて、しばらく近付けそうにありません。二、三日動かない方がいいかも知れませんね」 【一太の着替え、母子手帳、医療費受給者証、保険証だけ持ち出せませんか?】 「分かりました。どうにかしましょう」 【すみません。巻き込んでしまって】 「別に、巻き込まれたと思ってませんよ。私も卯月も」 橘さんは飄々としていた。 「未知さん親子に出会い、一番喜んでいるのは卯月です。遠慮しないで面倒を見てもらったらいい。もうじき、上機嫌で帰ってきますので」 それから5分と掛からず卯月さんと一太が帰ってきた。橘さんの言う通り、卯月さんは鼻唄を口ずさみ、一太を脇に抱き抱えて上機嫌だった。 「まま、ただいま!おもちろい、おじちゃん、いっぱいいた!」 一太もまた機嫌が良かった。両手に抱えきれないくらいのお菓子の袋を抱えていた。 なかなか帰って来なくて、連絡もなくて、どれだけ心配したか。 「わりぃな、一太を連れ回して。組幹部の連中にどうしても面通しさせたかったんだ。俺の知り合いの、縣一家の組長代理の縣にも。 それにしても一太は偉い。そばに母親がいなくても泣かなかったし、駄々を捏ねることもなかった。しっかり挨拶も出来て、みな、驚いていた」 卯月さんに頭を撫でてもらい、一太は溢れんばかりの笑顔を見せた。

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