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彼が好き

ピピピィ枕元の目覚まし時計が鳴り出し、二人を起こさないようにすぐ止めた。 あのあと、卯月さんの機嫌が悪くなって。仏頂面したまま、目も合わせてくれず。気まずいまま就寝した。 一太を腕枕し胸元に抱き寄せて横臥している彼。二人ともすやすやと穏やかな寝音を立てて熟睡していた。 同じ空間に一緒にいるだけで、不思議と安心する。満たされる。 起こさないようにそっと、彼の顔を覗き込んだ。 すっと通った鼻筋、男らしいきりっとした眉。瞼を閉じてても二重の線がハッキリしてて。でも開いている時の方が断然格好いい。久し振りに見る彼の寝顔に、整った顔の造りに見入ってしまった。 「うっ、う・・・ん・・・」 ピクピクと彼の瞼が微かに動いて、慌てて顔を逸らしベットから飛び起きた。 「・・・な、な・・・」 眠気眼を擦りながら、彼の口から零れ落ちたのは知らない女の人の名前・・・恐らく奥さんの名前だろう。 心の奥に芽生えたのは、彼に愛される奥さんに対する嫉妬心。 引っくり返すことの出来ない紛れもない現実に、胸が締め付けられ、苦しくなった。 彼が好き。 この瞬間、僕は、彼へ対する想いをハッキリと自覚した。 「橘さん、すみませんね」 「いいえお気になさらずに」 橘さん護衛のもと、再びカフェで働かせて貰えるようになった。一太も張り切ってお手伝いしてくれる。ただいるのも申し訳ないと橘さんも率先して接客の手伝いをしてくれた。テキパキと手際よく動く彼に茨木さんも舌を巻いていた。

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