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彼が好き
「私も母子家庭で育ったんですよ。昼間はフェミレスで働いて、夜は居酒屋で働いて家族を養っていたんです。そんな時、卯月に出会って・・・お陰で弁護士になる夢を叶える事ができました。あれ!?言ってませんでしたか?」
橘さんが弁護士って・・・そんな・・・てっきり卯月さんの秘書だと思っていたから。吃驚し過ぎて、ぽかんと口を開けしばし固まってしまった。
「卯月専属の弁護士ですよ、彼と、彼の会社、そして組を守るのが私の役目ですから。後悔はしていません。それはそうと、未知さん」
名前を呼ばれ反射的に顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべる彼と目が合った。
「ーー貴方、卯月に恋、してますよね?」
最初、何を言われたか分からなくて。また、ぽかんとしていると、今度は失笑された。
「顔をみれば分かります。分かりやすいんですよ、未知さんは。すぐ顔に出るタイプですからね」
ようやく橘さんの言葉を理解した時、顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。
「まぁ、昔からモテててましたからね、彼。顏は怖くても、優しいでしょ?無類の子供好きですし。ギャップ萌えっていうんでしょうか?人当たりもいいですし、あぁ見えて馬鹿が付くくらい真面目ですし。非の打ち所がないというのは、彼みたいなことを言うんでしょうね」
彼に何か言い返さないと、そう思いながらペンを走らせた。
でも、動揺して手が震えてなかなか先に進まない。
「デートに誘ったら如何ですか?表向き愛人ということになっているんですから、それを最大限に利用したらいい」
今度はくすくすと苦笑いされた。
「ここだけの話し、彼、自分だけ動物園に行っていないことをかなり根に持ってますよ。一太くんに楽しかったんだと言われるたび、憮然として、若い衆に八つ当たりしているんですよ。見ているぶんには楽しいんですけどね」
「まま、いちた、いきたい!」
話しを聞いていた一太が満面の笑みを浮かべ、割り込んできた。
「一太くん、ママと一緒に、おじちゃんにおねだりしたらどうですか?」
「うん!!」
手に持っていたおしぼりをぶんぶんと振りながら、大きく頷く一太。その愛らしい姿に自然と笑いが零れた。
一太のためじゃない。
少しでも、半歩だけでもいいから、前へと進むため。
卯月さんの奥さんに怒られてもいい。
睨まれても、恨まれても構わない。
人として最低の裏切り行為だもの。そのくらい分かってはいるけど、好きという気持ちをどうしても止められなかった。
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