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彼が好き
「橘さん、未知をあまり困らせないで下さい」
茨木さんが助け船を出してくれた。
「冗談ですよ」
くすくすと笑って返す橘さん。でも、目は笑っていなかった。
「茨木さん、あのあと、息子さんから連絡はありましたか?」
「いいえ」
「そうですか」
「あ、あの、橘さん。未知はいつまでその・・・」
茨木さんが言いにくそうに口を開いた。
「それを決めるのは、卯月ですので」
橘さんと何気に目が合った。
「未知さんさえ良ければ、卯月の実家でお二人とも引き取ることも可能ですよ。那奈さんも賑やかな方がいいでしょうし」
冗談とも本気ともとれない言葉に心が揺れる。試されているようで、何かイヤだ。
そんなとき、「まま、おてまみ」一太に服の裾を引っ張られた。
【あぁ、そうだね。お手紙、書かないとね】
「いちたもかく!」
メモ帳とペンを一太に渡すと、早速何かを書きはじめた。まだ、字は書けないから、ぐりぐりと大中小のまんまるい円を3つ。
「ままと、おじちゃん、いちた!」
今まで2つだったのにね。
いつの間にか一つ増えて、それが一太の中で当たり前になってて。
僕の心まで占めるようになった。
はじめて好きになった人は。
決して好きになってはいけない人。
恋がこんなにも苦しいなんて。思いもしなかった。
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