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彼が好き
うちに帰る前に、橘さんに卯月さんの仕事先に連れていってもらった。雑居ビルの最上階。中に入ると、柄の悪そうな強面の大柄の男たちに取り囲まれてしまった。ジロリと鋭い眼光で睨まれ足がすくんだ。
「卯月の愛人の未知さんですよ。」
橘さんが男たちに説明すると手のひらを返したように態度が変わった。
「若い子を囲ってるとは聞いていたけど、なるほどね」
30代、40代の男性の中にただ一人いた若い男性が一歩前に進み出た。細身の体にブランドのスーツを着こなし、やや長めの茶髪が揺れていた。
「彼は、森。卯月の舎弟の一人です」
挨拶するよう促され、慌てて一太と一緒に頭を下げた。
「何!?無視?」
怪訝そうに声を荒げられても、こればかりはどうしようもない。
「卯月から聞いているはずですよ、未知さんが喋れないこと」
「そうだっけ?忘れた」
森さんは、年上の橘さんに対し、敬語を一切使わなかった。自分の方が立場が上。そんな感じだった。
「ねぇ、手嶌組に何したの?小面倒くさいこと持ち込んで。えらい迷惑してるんですけど」
「少し、口を慎んで頂けませんか?」
「卯月がどんな女と付き合おうがボクには関係ないけど、こぶつきの、男か女か分からないような気色悪い変な生き物を側に置くのがどうしても許せないだけ」
軽蔑するかのように鼻先で笑われ、冷たい視線を送られた。
気色悪い変な生き物ーー両性に生まれて18年。好奇の目に晒され、酷い言葉を言われることもしばし。その中でも一番辛辣な言葉だった。
僕だって、好きで両性に生まれたんじゃない。
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