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大好きな彼と一太と、はじめてのデート
「未知、話しがある」
一太の後を追いかけようとしたら、卯月さんに手を掴まれて、そのまま店の外へと連れ出された。 卯月さんの手、おっきくて暖かい。 嬉しくて涙が出そうになりぐっと堪えた。 家族連れで賑わうペンギン舎を見向きもせず、一言も発せず、着いた先は入口のゲートの近くだった。そこで僕を待っていたのは、恰幅のいい壮年の男性だった。
「一太は橘と遼成に任せておけば大丈夫だ。安心しろ。未知、彼は拝島。手嶌組の幹部だ。直接話しがしたいと頼まれてな」
手嶌組って、あの手嶌組だよね? びくびくしながら男性に軽く会釈した。
「別に取って食おうんぞ考えてないぞ。顔上げろや」
ゲラゲラと声を立てて笑われた。
「茨木颯人がどこにおるか、ほんまに知らんのか?」
開口一番颯人さんの所在を聞かれた。ちらっと卯月さんの顔を伺うように見上げると、正直に言え、安心しろ。そう言ってくれて、大きく頷いた。
「野郎、組の金持ってズラかりやがった。カシラのお気に入りだか何だか知らんが」
手持ちぶさたになり、顎にうっすらと生えた髭を指先で弄ぶ男性。
「まぁ、ええ。野郎が姿見せたら、すぐ連絡寄越せ。万が一でも匿ったりしたら、かわいい息子の命がないと思え。ええな」
凄味をきかせた低い声で恫喝され、あまりの迫力に縮み上がった。
「拝島さん、未知にもし何かあったら、そちらの事務所にうちの若い衆が乗り込みますよ。それでもいいんですか?」
卯月さんが僕を庇うようにすっと前に出た。
「物珍しいイロを囲ってると噂に聞いていたが、なるほど」
「未知は未知です。彼を侮辱することは、この俺が許さない」
ニタニタと薄笑いを浮かべる男に、 キッパリそう言い放った卯月さん。 男らしい隆々とした背中はとても誇らしげで、あまりの格好良さに、うっとりと見惚れてしまった。
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