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それでも彼が好き
「未知」
台所で洗いものをしていたら、 卯月さんにそっと抱き締められた。
「一太寝かし付けたから、俺の部屋に来ないか?」
大好きな彼に熱っぽいまなざしを見詰められ、それだけでドキドキが止まらない。
「一太、眠りが浅いだろ?起きる前に二人だけで過ごしたい」
恥ずかしくて顔を上げられずにいたら、彼の口唇が首もとに押し当てられた。
びっくりして顔を上げると、顎に彼の長い指が触れてきて、頤を掬い上げられた。間を置かず熱く濡れた口唇に唇を塞がれた。
【ーー卯月さん】
肩を抱く手の力が強くて。
お兄ちゃんに無理矢理されたあの日の事が脳裏に浮かんできた。
【・・・怖い・・・】
体が強張り、ブルブルと震えだした。
「未知・・・大丈夫・・・嫌なことはしない。俺を信じろ」
唇を少しだけ離した彼に囁かれ、あやすように耳朶から顎まで優しい口づけを繰り返ししてくれた。
「トラウマを無理に克服しようとしなくていい。ゆっくりでいいから・・・少しずつでいいから」
くすぐったいようなむず痒いような感覚に体の緊張が解れてきて、彼の腕の中で力を抜くと、再び唇が重なってきた。
【っ・・・ん・・・】
うっすらと開いた唇の間から、彼の舌が入り込んできて、舌を絡めとり、上顎を擽り、歯列を舐めて喉の奥まで貪るように吸い上げられた。
呼吸さえ出来ない苦しさになのに、胸はジンジンと熱くなるばかりで。
【ーーふ・・・っん・・・】
慣れない激しい口づけに、飲み切れなかった唾液が糸を引いて溢れ落ち、それを彼の唇が追いかけてきてペロッと舌先で舐められた。
「可愛いな未知は。ますます好きになった。おいで」
満面の笑みを浮かべ、甘い声で誘われたら断ることなんか出来ないのに。
奥さんを裏切るわけにはいかない。理性を総動員してかろうじて踏みとどまろうとしていたのに。
ずるいよ卯月さん。
「怒った顔もなかなか可愛いな」
くすっと苦笑いした彼に手を引かれ、奥の書斎に、彼の寝室に連れていかれた。
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