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彼と結ばれて

ただでさえ顔が怖いのに。ますます怖くなってるよ卯月さん。一太が怖がるから笑って。エヘヘと愛想笑いすると、つり上がっていた口角が少しだけ緩んだ気がした。 「なぁ、遥琉。うちのカミさんとお前のカミさん交換してくれねぇか?」 「はぁ!?死んでも嫌だね。未知は俺と一太のものだ。誰にも渡さない」 「いいよな~、つくづくお前が羨ましいよ」 「誉め言葉として受け取っておくよ」 二人の会話を黙って聞いていた茨木さん。テーブルの上にコーヒーとりんごジュースを置いたとき、男性と目が合った。 「私の顔になにか付いてますか?」 さっきからじろじろと見られているの、気が付いていたんだ。 僕でさえ怖くて足がすくんだのに。茨木さんは全く動じていなかった。 考えてみたら茨木さんのこと何も知らないことに気が付いた。三年の間散々世話になっていながら。 薄情と言われても反論出来ない。 元々寡黙で口数が少なくて。 黙々と仕事に打ち込んでいるから、声を掛けるのでさえ躊躇してしまう。 考えてみたら颯人さん以外の家族の話し、自分からすることはなかった。亡くなった奥さんのこともそう。亡くなった事しか聞かされていない。 茨木さんって一体何者なんだろう。 30分近く卯月さんと何やら話し込んだのち男性が先に席を立った。 「あぁ、そうだ。マスター、昇龍会の播本という男知らんか?」 帰り際男性の口から出たのは、ニュース番組で何度か耳にしたことがある関東一円を縄張りにもつ指定暴力団の名前だった。 たしか跡目相続争いで、抗争が勃発し、警察が警戒を強めている。男性アナウンサーがそんな事を話していたっけ。 卯月さんもいつになく厳しい眼差しで茨木さんを見詰めていたけど。 表情一つ変えず、黙々と手を動かしてコーヒーカップを洗っていた。

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