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プロポーズ

その日の夜。一太を寝かし付けながら、もう何度目だか分からないため息をついていると、卯月さんが部屋に入ってきた。あれからずっとぶすっとしてて一言も言葉を交わしていない。一太には笑顔で話し掛けるのに。僕が声を掛けようとすると、必ず不機嫌になる。 「一太、寝たか?」 両手を万歳して、すやすやと寝音を立て始めたそのあどけない寝顔を覗きこむ卯月さん。 「未知、右手」 頭を撫でながら急に何を言い出すのかと思ったら。 「聞こえないのか?右手を出せ、早く」 よほど虫の居所が悪いか、かなりイライラしていた。気に障るようなこと、何もしていないはずなのに。僕が気が付かないだけかも知れないけど。 擦りむいて血が滲んでいたところを消毒して絆創膏を貼って貰った右手を恐る恐る彼の前に差し出した。 つかつかと歩み寄ってきて、ガシッと乱暴に手首を掴まれた。 その目は完全に座っていた。 いつもの優しい彼の姿は微塵もなかった。 もう片方の手が伸びてきて、絆創膏を勢いよく剥がすと、消毒液が染み込んでいる傷口をペロっと舐められた。 【う、卯月さん‼】予想もしていなかった事態に慌てふためいた。 「そんなに俺に触れられるの嫌か?」 哀しげな眼差しを向けられ、ぶんぶんと首を横に振った。 「じゃあ、焼きもち妬きは?嫉妬深い男は?」 矢継ぎ早に質問を投げかれられ、そのたび首を横に振った。 「男は幾つになっても女を求めるものだ。それが男の性だから・・・赤の他人である未知を匿い、生活の面倒を見て、実の孫のように可愛がっているだろう?今まで気にもしなかったけど、今日の彼を見てハッキリと分かった。間違いなく未知に恋愛感情を抱いている。だから、俺との結婚に難色を示しているんだろう。未知を取られたくないから。それならすべての辻褄が合う」 茨木さんに限ってそんなまさか…… 驚き過ぎて言葉が見付からなかった。

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