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プロポーズ

「こんなオヤジに捕まって、後悔しているんだろ?今なら、まだ間に合うぞ」 いつからこんなに意地悪になったんだろう。両想いになった途端、ガラリと人柄が変わったような。気のせいかも知れないけど。 「やっぱり、俺より茨木さんの方がいいか?」 また変な質問を投げ掛けられて。 それにドキッとしたのか、指先に力が入りぐいっと指輪を根元まで押し込んだ。 あれだけ苦労したのに。こうもすんなり入るとは。 「図星か」 【違う‼】 ぶんぶんと首を横に振って必死に否定した。 僕は卯月さん一筋だよ。 卯月さん以外誰も好きにならないよ。 「未知といると楽しいな」 笑いを堪えながら、そっと左手を僕の左手の上に重ねる彼。 目が合うと、一転。真剣な眼差しを向けられた。 「役所に離婚届を出してきた。橘が言うには今の法律では性別変更の手続きは、本人が二十を越えて、自分で申し立てをしないといけないらしい。2年待たせる事になるが、そしたら一緒に婚姻届を出しに行こう・・・しつこいようだが、ほんとに俺でいいのか?」 今にも泣きそうな。 不安そうな表情を浮かべる彼。頻繁に瞬きを重ねる。 「こんなにも可愛い子が、俺を好きでいてくれる。夢じゃないかって何度思ったことか。だから、心変わりしないかいつも不安で。なるべく焼きもち妬かないようにするから。だから頼む‼俺の側に一生いてくれ」 彼が深々と頭を下げてきて。 予想外のことに面食らってしまった。 泣く子も黙る龍一家の若頭補佐である彼がプライドをかなぐり捨ててまで、プロポーズしてくるとは思わなかったから。 僕の答えは最初から決まってる。 2年なんて長いようで、あっという間だもの。

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