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蜜月

その日の夜。一太と彼の寝顔を眺めながら、自分なりの言葉で手紙を綴った。便箋一枚書くのに何度も何度も書き直した。 『父さん、母さんへ お元気ですか? 三年前、病院から逃げたことまず謝ります。どうしてもお腹の子を堕ろすことが僕には出来なかった。だって子供には何の罪もないから。 せっかく授かった命だもの。 たとえそれがお兄ちゃんとのーー実の父さんの子だとしても。 優しい人に助けてもらい、無事に子供を産むことが出来ました。 名前は一太です。 大きい病気をすることなく、元気いっぱいすくすくと成長しています。 大勢の人に助けてもらいながら、一人で一太を育ててきましたが、好きな人が出来て、その人と結婚することを決めました。 すごく優しい人です。 子煩悩で一太の面倒をみてくれて。一太も彼が大好きです。 父さん、母さん 僕のことは心配しないで下さい。 彼と一太を守って生きていきます。十五年間育ててくれてありがとう。 親不孝な息子をどうか許してください 未知より』 「ここ三日、未知の泣き顔しか見ていないような・・・まぁそのうちの二日泣かせたの俺だが・・・」 ふわっと温かな広い胸に後ろから抱き締められた。 あれ、寝ていたはずじゃぁ・・・ 「書き終わるまで待っていたんだ。たくっ、泣き虫なんだから」 彼の指が目蓋の縁をそっと拭ってくれて。はじめて泣いていることに気が付いた。 「それと”未知”の前に肝心なのが抜けてるだろ」 そう言って右手に彼の右手が重なってきて。ボールペンを一緒に持つと、名前の前に”卯月”と書き足した。 「これでいい」 ”卯月未知”新しい名前に慣れてなくて。なんか気恥ずかしい。これからずっとそう呼ばれるのだと思うと、嬉しくて自然と笑みが零れた。泣いている場合じゃない。ゴシゴシと手の甲で涙を拭った。

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