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悪意
一ヶ月後ーー
お昼まで一太を児童館で遊ばせ、彼が迎えに来るのをドアの前で待っていた。
「まま、ぱぱおそいね」
お仕事長引いているのかな?
すぐ来るからもう少し待っていようね。
喋れない代わりに、笑顔で一太の頭をいっぱい撫でた。
「はぁ~~い‼」
お腹がすいたと普通なら駄々を捏ねるのに。泣いて訴えるのに。一太は大人しく待っていた。
実の親に見放され、彼のところしか帰る場所がなくなって。
数日間は何も手につかなかった。
家出して3年間音信不通だったんだもの。いきなり元気ですと手紙を貰ってもちっとも嬉しくないし、迷惑だったんだと思う。
書いた手紙はそのまま読まれた形跡がないまま、茶封筒の中に入っていた。
落ち込む僕を元気付けようと、昨日、茨木さんが常連さんに声を掛けてくれて、サプライズで結婚祝いをしてくれた。
「未知ちゃんの旦那さんが羨ましい」
「あと四十才若かったら、先にプロポーズしたのに」
両腕に抱えきれないくらいたくさんの色とりどりの花束をプレゼントされた。
「卯月さんかぁ・・・慣れるまで、なんか恥ずかしいな」
吉澤さんが真っ赤になって照れていた。僕だってそう呼ばれることに慣れていなくて。恥ずかしいのは一緒なのに、ほんと面白い。
「ここと、卯月さんのところが、未知の居場所だ」茨木さんに励まされて。
一太と彼との為に、前を向いて、笑顔で歩いていこう。そう決めた。
だからもう泣かないと心に誓った。
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