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監禁
「喋れなかったんだな、そういえば。まぁ、大声を出したところで誰も助けに来やしないがな」
一人言をぶつぶつ言いながら、レジ袋からお弁当を取り出した。
「悪いが二、三日はコンビ二の弁当で我慢してくれ」
カシャカシャと透明の蓋を外し、割り箸を二つに割った。唐揚げの香ばしい匂いの先に一太の顔が浮かんできた。
唐揚げ大好きだもんね。
ちゃんとご飯食べたかな?
パパの言うことを聞いて、お利口さんしてるかな?
切羽詰まった状況にも関わらず、自分のことより一太のことばかり考えていた。だから、冷静でいられたんだと思う。
「口を開けろ」
唐揚げを一つ箸で掴み口元をツンツンされた。
大人しく言うことを聞こう。
気に障るような真似をしないように気をつけよう。
この状況だもの。万が一でも彼を怒らせたら、3年前みたくまた・・・
それだけは何としてでも避けなければ。
もしそうなったら、間違いなく彼に捨てられる。
一太から父親を奪うことになるもの。
「嫌いか?」
ううん、精一杯の笑顔で首を横に振った。
「そっか、それなら良かった」
お兄ちゃんの表情が少しだけ緩んだ気がした。
「熱くないか?」
うん、大丈夫。身が柔らかくて皮がパリパリで。すっごく美味しい。
唐揚げを食べ終わるのを見計らって、おかずとご飯を交互に口に運んで貰った。弁当を食べ終わる頃には、お兄ちゃん、すごく機嫌が良くて。
このまま大人しく言うことを聞いていれば、もしかしたら彼と一太のところに返してくれるはず。そう信じて疑わなかった。しかし、現実はそう甘くなかった。
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