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神様ありがとう

起き上がれるようになったら、まず最初に一太をおもっきり抱き締めようって決めていた。 目の前でママが連れ去られたんだもの。すごく怖かったよね。いっぱいいっぱい泣いたよね。ママがいなくて寂しかったよね。 一太、ごめんね。 ほんとにごめんね。 「まま、くるちぃ」 一太の声にハッと我に返り、慌てて腕の力を抜いた。 「いちたね、にんじんさんたべれたんだよ」 誇らしげに目を輝かせる一太。そっか、偉いね。見るだけで大騒ぎだったのに。頭を撫でてあげるとニコニコの笑顔になった。 「未知、いいか?」 彼が花柄のワンピースを着た女性を伴って病室に入ってきた。ショートヘアで小柄な女性。 あっ、この人・・・ 僕は彼女を知っていた。 児童館でボランティアをしていた、確か秦さんっていう名前だったような。 一太をすっごく可愛がってくれて。児童館に遊びに行くと、一太は彼女から片時も離れようとはしなかった。おうちに帰るよと言うと、帰りたくないと大駄々し、わんわん泣いて毎度のように彼女を困らせていた。 「おねぇしゃんだ!」 一太もすぐに気が付いて、目をキラキラと輝かせた。 「あのな、未知・・・」 彼が言いにくそうに口を開いた。 「私から言うから」 女性が彼の言葉を遮った。 「未知さん、初めましてじゃないわね。私の名前は秦・・・那奈・・・この焼きもちやきの元妻よ。そして、貴方の・・・姉よ・・・」 えっ!? 今なんて? 最初、何かの聞き間違いかと。冗談だと思った。

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