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取り返すことの出来ない過ち
「ごめんさない、急にそんなこと言われても困るわよね。遥琉、悪いけど未知と二人きりにさせて欲しい」
「あぁ、分かった。一太、パパっておいで。散歩してこよう」
彼が一太を抱き上げてくれた。
「のどかわいた」
「じゃあ、下の売店に寄っていこう」
「うん‼ままのと、おねぇしゃんのもぶんも」
「あぁ、そうだな」
病室を出るとき、彼が一度だけ振り返り、秦さんの方を向いた。
「那奈、俺は生き別れた妹がいるとしか聞いてなかったぞ」
「あら、そうだった?でも間違ってはいないはずよ。未知、半分は女の子だもの」
「てか、未知が実の弟だってお前から聞かされたの十分前だぞ。なんで早く言わないんだ」
「だって忘れていたんだもの」
「はぁ!?」
しれっとして答える秦さんに、さすがの彼もお手上げのようだった。
「何から話したらいいかな?まずは、自己紹介からしようか」
二人きりになりベット脇の椅子に腰を下ろす秦さん。テーブルの上に置いといたメモ帳とペンを取ってくれた。
「まず、私から。秦那奈。年は三十。ちょうど一回り上ね。十才のとき、母が結婚することになって、叔父夫婦に預けられたの。そのまま養女になって、二十の時に、あの焼きもち妬きと結婚したの」
彼女はずっと笑顔を絶さなかった。
十年もの間寄り添った夫を、まさか男に、しかも実の弟に奪われて、憎くはないのだろうか?
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