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取り返しのできない過ち

「だってあなたと一緒にいる遥琉、すごく楽しそうで。あんな笑顔の彼はじめて見た。一太にパパって呼ばれて、すっごく嬉しそうにしてて・・・顔は怖いのにね、一太は怖がることなく懐いて、パパ、パパって・・・素直でいい子よね、一太・・・彼から遥琉を取り上げるわけにはいかないでしょう。お腹の子から父親を奪うわけにはいかないでしょう。私も父親がいなくて寂しかったから、同じ思いをその子にさせたくないの」 最後は涙声になっていた。 「だから、離婚に応じたの。遥琉を誰よりも愛してるからこそ、未知、あなたや一太に託そう、そう決心した・・・ごめんね、泣くつもりなかったにね」 涙を流しながら、嗚咽を漏らしながら秦さんは言葉を続けた。 気付けば、僕も泣いていた。 「まま、おねぇしゃん」コンコンと遠慮がちにドアがノックされて、「もういいかい」って元気な声が聞こえてきた。隠れんぼうしてる訳じゃないのに。思わず笑うと、秦さんの表情にも自然と笑みが広がっていた。 「もういいよ」 二人して涙を手で拭った。泣いている場合じゃないもの。 「まま、おねぇしゃんめっけ‼」 「あ~ぁ、見つかっちゃったか」 ドアが開いて、一太が駆け込んできた。両腕に500mlのペットボトルのお茶を二本も抱えて。足元が覚束ないのか、少しふらついていた。 「危ない‼」 床に躓いて転びそうになった一太を、秦さんが寸でのところで抱き止めてくれた。 「おねぇしゃんにおちゃ」 「ありがとうね、一太」 にっこりと笑って秦さんにお茶を手渡す一太。 「走ったら危ないって、パパ言ったよな?」 彼も続いて姿を現した。 「ごめんなしゃい」 怒られてしゅんとして頭を垂れる一太。 「これからは気を付けような」 彼が笑顔を見せると、一太もたちまち溢れんばかりの笑顔になった。彼に抱っこをせがみ、抱き上げてもらうと、今度はキァーキァーと黄色い歓声を上げてはしゃぎ始めた。 秦さんはそんな二人のやり取りを黙って見詰めていた。

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