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取り返しのつかない過ち

「一太はパパのこと好き?」 秦さんの問い掛けに、一太は満面の笑みを浮かべ、大好き!そう即答した。 「じゃあ、どのくらい好き?」 「えっとね・・・こんくらいだいすきだよ」 一太は小さな手を懸命に伸ばし、広げられるだけ左右に大きく広げた。 それを見た秦さんは目蓋の縁に涙をいっぱい溜めて、鼻を啜った。 「遥琉、私の大事な弟と甥っ子を泣かせたら許さないからね」 「あぁ、言われなくても分かってる」 「お腹の赤ちゃんに焼きもち妬き過ぎないのよ。茨木さんにもね」 「だから、大丈夫だって。多分・・・」 痛いところをつかれて、声が小さくなる彼。 「それなら良かった。未知と一太を絶対に幸せにしてあげてね。守ってあげてね」 涙を堪えて、笑顔で一太の頭を撫でてくれる秦さん。 「おねぇしゃん、またあそぼ」 「うん、そうだね」 一太の屈託のない笑顔に、秦さんの目からは涙が溢れていた。 「あなたが連れ去られた時、一太をいち早く保護したのは私よ。でも、それよりも行動が早かったのは昇龍会だった。父が、龍一家と縣一家の幹部連中に指示をして、あなたを捜したのよ。遥琉も血眼になってあなたのことを必死で捜したのよ。未知、あなたは一人じゃないのよ。父や茨木さん、縣さんら、みんなあなたのことを心から愛してるわ。勿論、遥琉や橘もね。誰からも好かれるあなたが羨ましいわ。幸せになるのよ」 秦さんは涙を拭いながら病室をあとにした。 「那奈!」彼が呼び止めたけど。 「心配しないで。私はそんなに柔じゃないから」 そう強く言い切って、廊下へと姿を消した。

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