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取り返しのつかない過ち
「未知、那奈を止めろ。2度と会えなくなるかも知れないんだぞ」
彼が急にそんな事を言い出した。
「那奈に口止めされていたんだが、内部抗争を終らせるため、昇龍会に資金援助を申し出た海外在住の資産家の男と再婚するそうだ。好きでもない、会ったこともない、年上の男とだ。那奈は、組を守るために、自分を犠牲にすることを決めたんだ。未知、那奈を止められるのはお前だけだ。今なら間に合う」
彼に手伝ってもらってベットから起き上がった。急に立ち上がったから、少し立ち眩みがしたけど、そんなことよりも秦さんを止めるのがまず先。
一太に手を引っ張ってもらって、ふらつきながらも後を追い掛けた。
廊下に出るとエレベーター待ちをしている彼女の姿が目にすぐ入った。
【ーーお、ね、え、さん・・・】
お腹に力を込め声を絞り出した。
僕の声が、少しでも彼女に届きますように。
そう祈りながら。
一太もおねぇしゃん‼とおっきな声で彼女を呼んだ。
姉がいると知って、すっごく嬉しかった。ようやくやっと会えたのに。これが最初で最後なんてそんなの悲しすぎるもの。
扉が開いて、半歩だけ足を進め、そのまま立ち止まる秦さん。
「おねぇしゃん、まって‼」一太が駆け出すのと同時に、秦さんもまた踵を返した。
僕も行こうとしたけど、彼に止められた。
「安静にしてろって、医者に言われただろ」
じゃあ何で追い掛けろって言ったの?
遥琉さん、言ってることが違うよ。
「そりゃあ、ほんの僅かな時間でも未知と二人きりになりたいからに決まってるだろ?」
悪びれる様子もなくしれっとして答える彼。嬉しそうに手を繋いできて、そっと指先を絡めてきた。
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