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彼のお父さん
それから数日後。自宅に帰る許可が先生から下りて、退院したその足で、彼の実家に向かうことになった。
彼、最後の最後まで橘さんに嫌だ、行きたくないを繰り返していた。
「未知さんを誰にも見せたくないあなたの気持ちは分かります。でも嫁として、ちゃんと挨拶だけはしておいた方が宜しいのでは?」
橘さんに諭されて、渋々ながら頷いた。
「5分いたら帰るぞ」
「お好きにどうぞ」
今幾つなんですか?一太くんの方があなたより素直ですよ。橘さん、困り果てて、ため息ばかりついていた。
彼と一太と三人で、橘さんが運転する車で彼の実家へと向かった。
黒光りする立派な門の前で車を下り、重厚な門構えに面食らいながら、一太を真ん中に、手を繋いで潜った。
広い庭を横切ると、歴史を感じさせる古い造りの日本家屋が姿を現した。
「そんなに緊張するな」って笑いながら彼。そんなこと言われても、非日常のありえない光景が目の前に広がっているのに緊張するなっていうのがまず無理だから。
左右にずらりと組の皆さんが総出で並んで出迎えてくれた。その中には、お店に一度来てくれた根岸さんの姿もあった。
ガチガチに緊張しながら、その前をドキドキしながら歩いた。
「お前さんが未知さんか?」
一番奥にいた恰幅のいい強面の男性に声を掛けられた。紬の着流しを粋に
着こなして、前で手を組んでいた。年は茨木さんくらいかな。
「やはり姉妹。那奈さんによう似てる。初めまして、遥琉の父親の、卯月上総だ。おぅ一太。遊びに来たか」
笑顔で自己紹介してくれた男性。一太のことをなぜか知っていた。
おじちゃん‼って一太も男性を怖がることなく、僕の手を離すと自分から駆け寄って行って、大きな声で元気に挨拶していた。
「何度かここに一太を連れてきたんだ。俺の息子として組の幹部連中に紹介した。勿論、父にも」
そんな大事なことなんでもっと早く教えてくれないのかな?
「そう怒るな。別に悪気があった訳じゃない」
「未知さんよ、遥琉はな、本当はお前さんをみんなに紹介したくないんだよ。焼きもち妬きはこれだから困る」
「五月蝿い、余計なことを言わなくていいから」
痛いところをつかれて、すこしぶすくれる彼。なんか、かわいいかも。
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