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その後
「暑苦しいからいい加減離れてよ」
心さんが裕貴さんの腕を振りほどき、そぉっと遥香の顔を覗き込んだ。
「間違いなく遥琉の子供、なの?」
しばらくの間、無言で寝顔を眺めていた心さん。まさかそんな事を聞いてくるとは思ってもみなくてびっくりした。
「間違いなく遥琉の子供ですよ。未知さんが遥琉以外の男性とお付き合いされる訳ないでしょう」
「だってさぁ・・・」
心さんが唇をつまみ不満を露にした。
「あんだけ顔が怖いんだよ。それなのに、こんなにも可愛い子が産まれるなんて・・・今だに信じられないの」
「遥香さんはママ似ですからね。あなたの言いたいことよく分かります。私も遥琉に似なくて良かった、そう思っていますよ」
「でしょう」
橘さんが自分と同じことを考えていたと知るやいなや機嫌が良くなる心さん。
「こっちも゛はる゛なんだよね。何でまた似たような名前付けたの?」
「ご自分の子にどうしても゛遥゛の字を付けたかったみたいですよ。心さんも、裕貴の子供欲しいでしょう」
「欲しいけど、未知と違ってボクは男だよ。どうがんばっても無理だもの」
「特別養子縁組でお子さんを迎えるという手がありますよ。裕貴も遥琉と同じで、嫉妬深くでかなりの焼きもち妬きですからね。時期がくれば彼の考えも多少は変わるでしょう。今は蜜月を楽しんで下さい」
「橘って、もしかしてボクのことも好きなの?ずっと遥琉一途でさぁ、なんだかんだと言って遥琉のことばかりとことん甘やかすでしょう。その癖、ボクにはいっつも厳しくて」
「それは彼が未知さんと出会う前の話しです。昔のことをわざわざ掘り返さないで下さい。今は未知さんと一太くん、遥香さんの世話をするのが私の生き甲斐です」
橘さんがちらっと裕貴さんに目を遣った。僕もつられて彼を見ると、かなり不貞腐れていた。
「心さん、旦那様がお待ちですよ。人目を憚らずイチャイチャするのは一向に構いませんが、痴話喧嘩は余所でしてくださいね」
橘さんに言われて、心さん顔を真っ赤にしていた。
「姪っこの手くらい握らせてよ」
裕貴さんに腕を掴まれ、控室を出るとき、蚊の鳴くような、女の子みたいな声で頼む姿が、普段のツンツンしている彼とは程遠くて。驚いた。
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