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番外編 かけがえのない宝物

長い間龍一家で若頭補佐を務めてきた彼。縦社会の中で生き抜くため、常にしきたりを重視してきた。だから本家筋にあたる秦さんには絶対に従わないといけない。 「分かりました。立会人慎んで引き受けさせて頂きます」 彼が軽く頭を下げると、一太も一緒に頭を下げた。 「何だ、一太も立会人を引き受けてくれるのか」 秦さんが声を出して笑いだした。 「すみません」 「一太をみなにお披露目するいい機会じゃないか。そう思わないか遥琉」 謝る彼に秦さんがそんなことを言い出した。 「全国津々浦々から幹部連中が集まってくる。゛直参の龍一家の組長の孫゛として紹介すればいい」 浮かない表情で一太の顔を覗き込む彼。 「やはりあの噂は本当だったんですか?」 「噂?あぁ、あれか。手嶌組の監視下に置かれていた颯人が逃走したってヤツか」 コーヒーを淹れていた茨木さんの手が止まった。 「颯人には二度と未知に近付かないと念書を書かせました。未知に危害を加えることは即ち龍一家を敵に回すこと。そのくらい彼だって分かる。そんなことより、茂原と、福井がどちらが跡目を継ぐかでかなり揉めたと聞きました」 「裕貴にでも聞いたのか?」 「いや・・・那奈に・・・」 彼がチラッと僕に視線を向けた。 ごめんな、黙ってて悪かった。目がそう言っていた。

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