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番外編 かけがえのない宝物

その日の夜。 一太と遥香を寝かし付けていると、彼が足音を忍ばせそっーと入ってきた。 「ごめんな未知、本当にごめん」 ベットの端に腰を下ろすなり、そればかり口にする彼。 「相談があるって那奈から連絡をもらって二回会った。も、勿論、橘もいたし、裕貴もいた。今まで黙っていて悪かった」 別に怒ってないし、気にしてないのに。那奈姉さんに焼きもちなんて妬いたらそれこそバチが当たるもの。 必死に平謝りする彼を見ているうち、何だかおかしくなってきた。 「許してくれるか?」 許すも許さないも、そもそも怒ってないから。うんと頷くと、彼の表情が少しだけ和らいだ。 「良かった。未知が許してくれなかったらどうしようって気が気じゃなかったんだ」 肩をそっと抱き寄せられて、広い胸元に頬を擦り寄せた。どくんどくんと脈打つ心音が心地いいリズムを刻んでいた。 「まわりがさ、三人目はまだかって五月蝿くて。それで一太に聞いたんだよ。そしたら、もう一人妹がいても大丈夫。僕頑張ってお世話するって言ってくれて、未知、そろそろ三人目を考えないか?」 【三人目・・・?】 そういえば秦さんにも言われたっけ。 「未知がさ、寝る間も惜しんで育児と家庭と仕事を両立して頑張っている姿を見てるから、夫婦生活より子育てを優先させてやろうと思って、したくても我慢してきた」 言われてみれば、もうずっと抱き合ってないかも知れない。 「昇龍会の新しい組長襲名の一連の行事が終わって、ある程度落ち着いたら、だけど・・・恐らく今回もすんなりとはいかないだろう。オヤジが万一のことを考えて、組の若い衆を護衛に付けてくれるそうだ」 一太と遥香にまで危害が及ぶかも知れないと彼。今回は何事もなく跡目相続が行われるだろうと楽観視していたみたい。でも、彼が思っていたより事態は深刻らしい。

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