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番外編 過去に囚われたままの彼

「ごちゅうもんは?」 強面の顔に怖がるどころか、にこにこと笑顔を振り撒きいつものように注文を取りはじめる遥香。 「お嬢ちゃん、ワシの顔怖くないのか?」 「うん!!」 大きく頷いた遥香に、男性の表情が自然と緩む。 「じゃあ、コーヒーを……砂糖なしのミルク多めで」 「はぁ~~い」 元気に返事をしてパタパタとカウンターに走っていった。 「縣さん、お久しぶりです」 「ご無沙汰してます」 入れ違いに心さんと裕貴さんが男性に挨拶をしに来た。 「おぅ、裕貴。いい面構えになったな。組長就任おめでとう」 「ありがとうございます」 裕貴さんが深々と頭を下げた。 「心、見ないうちにますます美人になったな。まぁ、うちの嫁二人には敵わないがな」 豪快に笑う男性に、心さんは終始、びくびくしながら、ぎこちない笑顔で接していた。 「お前さんは……?」 コーヒーを男性の前に置いたら、何となく目が合った。 「未知ですよ、卯月の次男坊の嫁です。喋ることが出来ないので、その辺は大目にみてやってください」 「あんたが卯月の嫁か。いや~~ぁ、一度会いたかったんだ。あの気がきくお嬢ちゃんは娘さんかい?」 頷くと、上着に手を入れ内ポケットから可愛らしいキャラクターが描かれたポチ袋を取り出した。 「あっ、これか?孫が好きなんだ。えっと……名前は……」 「遥琉の゛遥゛に、香るで、遥香です」 秦さんが代わりに答えてくれた。

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