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番外編 過去に囚われたままの彼
「別に取って食おうなんて考えていないから安心しろ。茂原にやられたところ、だいぶ良くなかったか?」
縣さんに聞かれ素直にコクリと頷いた。
「それなら良かった」
縣さんが安堵のため息をついた。
「実はな未知……」
いつも陽気な秦さんが、珍しく神妙な面持ちになっていた。何だろう……嫌な予感がする。
「今回の件と別件で手嶌組は組長をはじめ幹部が逮捕され解散に追い込まれた」
秦さんがポケットから写真を取り出しテーブルの上に並べた。
「いかに未知が昇龍会や龍一家にとって大事な存在か、ここにいる元幹部連中の耳に入ったんだろう。未知や遥琉に恨みを持つ人間を探しだし、言葉巧みに仲間に取り込んでいる」
黒ずくめの男たちの真ん中に、目付きの悪い煙草をくわえた髭面の大柄の男性が写っていた。
「ヤツが大上(おおがみ)。手嶌組の若い衆や、茂原の側近ら昇龍会を追い出された連中を集め、新たに大上組を立ち上げた」
二枚目には拝島さん。
「てっきり一番の古株の拝島が組長になると思ったんだが」
そう言いながら秦さんが3枚目の写真を並べた。そこに写る人物を見た瞬間、言葉を失い絶句した。
あの日、病院に駆け付けてくれた両親から、お兄ちゃんと半年以上音信不通だと初めて聞かされた。
両親と和解し、再婚した相手と幸せな家庭を築いているものだとてっきり思い込んでいたけれど……実際は違っていた。
久し振りに写真で再会したお兄ちゃんは、茶髪を後ろに流し、派手な身なりをしていた。隣には、長身でショートヘアの可愛らしい女性が笑顔で写っていた。
その女性を一目見るなり、裕貴さんの顔色が変わった。
「おい、千里。この女、カレンじゃないか?髪型は違うが、右目の下の黒子に見覚えがある」
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