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番外編 過去に囚われたままの彼

それから五分もかからず橘さんがカフェに姿を見せた。 「さすが橘。未知のことになると素早いな」 「たまたま仕事で近くにいただけですよ」 「どうだが。てっきり遥琉から、未知を守るよう指示されたのかと思ったよ」 裕貴さんの問い掛けには答えず、前を素通りし、帰ろうとしていた秦さんと縣さんと挨拶を交わす橘さん。 「久し振りだな橘」 「ご無沙汰しております」 大好きな橘さんの声にすぐに遥香が反応した。あっ、ままたんだ!!椅子からぴょんと飛び下りると、パタパタと駆け寄り、抱っこをせがんだ。 「未知、遥琉とよく相談してから決めろ。茨木、また来るな」 秦さんと連れ立ってカフェを出るとき、縣さんの視線が橘さんへと向けられた。 「橘、いい加減身を固めたらどうだ」 「私は今の生活に満足しています」 遥香を抱き上げ、愛しそうに腕の中に抱き締める橘さんをしばらく眺めたのち、縣さんは静かにカフェを出ていった。 「縣さんがわざわざ出向いてきたということは、至急の用ですか?」 「未知の兄と、遥琉の愛人だった女が、大上と手を組んで、何やら企んでいるらしい。これにはどうやらスカルも一枚噛んでいる」 「尊さんといい、カレンさんといい、二人とも諦めが悪いですね。どこまで未知さんたちの邪魔をしたら気が済むんでしょうか?スカルもそう、一度はカタギになったのに……」 哀れむような橘さんの視線が写真に向けられた。 「あ、あの!!すみません、スカルって……全然話しが見えないんですけれど」 心さんが右手を挙げ、ヒラヒラと左右に振った。 「お兄ちゃん、アタシも」 千里さんも右手を挙げた。 「お前に兄と呼ばれるいわれはない」 「えぇ、何それ!」 むすっとし頬をこれでもかと膨らませる千里さん。

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