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番外編 思いがけない再会

車で走ること二十分。着いた先は、駅前の繁華街に建つ十階建てのビルの前だった。入居しているテナントは一階から八階まで、すべて゛菱沼゛の名前が入っている企業が占めていた。菱沼商事、菱沼不動産、菱沼金融、菱沼コンサルティング、菱沼総業。 出入り口をうろつく黒服の男たちはみな強面で、鋭い目付きで辺りを警戒していた。 「ここが菱沼組の本部。組事務所は九階にあるみたいだよ」心さんが教えてくれた。 信孝さんが正面に車をぴたりと寄せると、建物の中から男たちが一斉に飛び出してきて、ぐるりと車を取り囲んだ。 それだけでもかなりの迫力なのに、一太と遥香にとっては見慣れた光景なのか、怖がることも、怯えることもなく、僕や心さんの手を握り締め、じっーと前を見据えていた。 「心さんお待ちしてました」 後部座席のドアを開けてもらい、心さんに続いて車を降りると男たちが一斉に九の字に腰を曲げ、頭を下げた。 黒のスーツに身を包んだ男性たちに守られて、心さんや子供たちとエレベ-タ-に乗り込んだ。行き先のボタンは十階までではなく、何故か九階までだった。 その九階でエレベ-タ-を下りると、数人の舎弟を引き連れた長身の男性が出迎えてくれた。どことなく険のある顔立ちで、右の頬には蚯蚓腫れのような傷跡がくっきりと残っていた。 確か若頭補佐の・・・名前は確か・・・弓削さんだっかな・・・ 「おう心、元気だったか⁉」 笑顔でひらひらと手を振る男性に、心さんはムッとし、唇を真一文字に結んだ。

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