278 / 3632
番外編 お兄ちゃんの歪んだ愛情
警戒しながら廊下に出ると、不気味なくらい静まり返り閑散としていた。
「おかしいな誰もいない」
警備にあたっていたはずの若い衆の姿が忽然と消えていた。そればかりじゃない。隣の診察室にいるはずの永原先生の姿も消えていた。
「警察に連絡をした方がいいかも知れない」
柚原さんに言われ、すぐに白衣のポケットからスマホを取り出す南先生。
柚原さんもスマホを取り出し、弓削さんに度会さんの自宅と事務所の警戒を強化するように指示した。
くくっどこからともなく笑い声が聞こえてきた。
「遥琉、未知の手を絶対に離すなよ。橘、千里と先生の側から離れるなよ」
たった一人でスカルと対峙すべく、引き金に指をかけて歩を一歩ずつ進める柚原さん。
「スカル、俺と決着を付けるために来たんだろ⁉逃げも隠れもしない。出てこい‼」
声を張り上げて叫ぶと、薄暗い非常灯の明かりの下、2つの黒い影がぬっと姿を現した。
スカルともう一人。それは・・・
三度《みたび》訪れた悪夢のような恐怖に全身の血が凍り付いた。
「未知、迎えにきたよ。パパと帰ろうか」
にっこりと笑みを浮かべながら手招きするお兄ちゃん。
怖くて手足がガタガタと震え出した。
「パパと一緒にその子を育てよう」
ジリジリと一歩ずつ近寄ってくるお兄ちゃん。この子達は大好きな彼との間に授かった赤ちゃんだもの。お腹を左手で守りながら、右手で跡が残るくらい彼の手を強く握り締めた。
「例え実の父だろうが未知には指一本たりとも触れさせない。未知は俺の大事な妻だ」
僕を庇うように一歩前に出る彼。今まで見たこともないような厳しい表情でお兄ちゃんを睨み付けた。
「尊さん、私の可愛い未知にそれ以上近付くことは許しませんよ」
橘さんまでも僕を守るため、危険を顧みずお兄ちゃんの前に立ち塞がった。
ともだちにシェアしよう!