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お兄ちゃんの歪んだ愛情

「裕貴さん、コイツはどうしますか⁉」 「永原先生が警察に事情を説明してくれている。警察が引き上げたら、本部の幹部に引き渡す。それまで逃げられないようしっかり見張っておけ」 「はい‼」 お兄ちゃんの顔を見るのは正直怖い。 また何かされるんじゃないか、襲われるんじゃないかって、不安で。 でも、警察に引き渡さず、本部の幹部に引き渡すってことは、もしかしたらもう二度と会えなくなるかも知れない。 恐る恐る、ビクビクしながらお兄ちゃんの顔に視線を向けた。 観念したのか真っ直ぐに前を見て微動だにしないお兄ちゃん。これから自分がどうなるか分かっているのか、覚悟を決め腹を括っている様にも見えた。 最後に自分の想いをどうしても伝えたかった。 『お兄ちゃん、この世にたったひとつしかない命を授けてくれてありがとう』 メモ帳に走り書きして彼に渡した。 悲しくもないのにどうしてだろう涙が零れるのは……お兄ちゃんがした事は決して許される事じゃない。今でもお兄ちゃんが怖いし、体の震えが止まらなくなる。 でも、お兄ちゃんがいなかったら僕はこの世に産まれることも、最愛の彼と、愛おしい子供達に出会うこともなかった。 家族の中では厄介者だった僕を、実の妹のように可愛がってくれる橘さんや裕貴さん、心さんや千里さんに出会うこともなかった。心の拠り所としてくれる大好きな人達とも出会う事はなかった。 憎しみからは何も生まれないもの。 お兄ちゃん、ごめんね。 僕が産まれてこなかったら、今頃、別の人生を彩さんと共に歩んでいたと思う。苦しい思いをする事も、大上組に利用される事もなかった。 お兄ちゃんの人生を狂わせてしまって本当にごめんなさい……

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