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番外編 波紋
「和泉茜音《いずみあかね》……恐らく覚えてないと思う。彼女は、オレにとっても、柚原にとっても、とても大切だった人だった」
髪を後ろで一つに束ね、今まで一度も見せたことがない怖い顔で真沙哉さんを睨み付ける千里さん。
男性としての顔を、声を初めて目の当たりにした。
「いずみ……あかね……?」
心当たりがないのか首を傾げる真沙哉さん。
「シノギを稼ぐため、手当たり次第拉致監禁し、シャブ漬けにし、違法風俗で無理矢理働かせた大勢の犠牲者の一人だ」
柚原さんが銃を構え僕の前にすっと現れた。
「大上がしたことだ。いちいち覚えてないな」
ニヤリと薄笑いを浮かべる真沙哉さん。
「俺が引き金を引いたらコイツは死ぬぞ。それでもいいのか⁉」
「未知もオレも心も極道の女。覚悟くらい出来てる」
毅然とした千里さんの態度に次第に追い詰められていく真沙哉さん。
形勢は一気に逆転した。
「ボス、一旦引きましょう」
若い衆に囲まれ、身動きが取れなくなった男が声を上げた。
仕方ない、ぼそっと呟くと手を離してくれた。
「未知!!心!!」
丸腰なのに危険を顧みず彼が駆け付けてきてくれた。
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