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番外編 波紋
「遥琉!!」
計り知れない憎しみを込めた怒鳴り声と共に今度は彼に銃口を向ける真沙哉さん。
彼は僕と心さんを庇うように前に立つと、黙って兄を見詰めた。
「おう真沙哉、遥琉は次期菱沼組の組長だ。撃てるものなら撃ってみろ」
「お前は確か度会………」
「何だ、殺した女の名前は忘れる癖に、一度しか会わなかった俺の顔は覚えているのか。皮肉なもんだな」
「何だと」
怒りを露にする真沙哉さん。
多くの舎弟を従え颯爽と姿を現した渡会さん。千里さんから銃を受け取ると、真沙哉さんと静かに対峙した。
「遥琉、未知を安全な場所に。心大丈夫か?」
柚原さんが心さんに駆け寄った。
「未知、大丈夫?」
「立てるか?」
彼と千里さんに体を支えてもらい、立ち上がろうとしたものの、足に力が入らなくてその場にへたりこんでしまった。
「何で自分ではなく遥琉が跡目として選ばれたか、目先の欲にかられたお前には分かるまい。組員は家族も同然と、遥琉は大事にしてきた。部屋住みだろうが幹部だろうが分け隔てなく接してきた。だからカタギになってもみな、遥琉を兄貴と呼んで慕ってる。そこがお前と決定的に違うところだ」
「ハウ ツァウ!!《うるさい》」
真沙哉さんが叫んだ。
「今回は見逃してやるから、さっさと大上のところへ帰れ。鷲崎組や吉柳会《きりゅうかい》はすべて昇龍会を支持する方に回ったぞ」
二つとも東北・北海道で最大の勢力を誇る組だ、彼がそっと教えてくれた。
ますます劣勢に追い込まれた真沙哉さんは、部下の男に帰るぞと声を掛け、辺りを警戒しなから風のようにあっという間にいなくなった。最後に「チ ス ラ《腹立たしい》」という言葉を残して……
「心、大丈夫か?」
「ごめん、安心したらなんか力が抜けちゃって……」
「逃げずによく頑張ったな。偉いぞ」
「柚原、僕……」
緊張の糸が切れたのだろう。心さんの目からは堰を切ったかのように涙が零れていた。
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