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番外編 襲名式
「柚原、あのな………」
「言わなくたって分かってる」
「なら良かった」
「俺だって優璃を口説き落とすのに五年も掛かったんだ。お前はまだ三年くらいだろ?」
「………う、うん」
もじもじと腰を揺らしながら、耳まで真っ赤にし顔を伏せる和泉さん。
男性なのに仕草がなんとも可愛いらしい。
「茜音だって、お前には幸せになってほしいと思ってるはずだ」
「ありがとう。それを聞いて安心した」
姿勢をすっとただし体の向きを変える和泉さん。
「弟は甘えん坊のさみしがりやで……精神年齢も十歳児のままですが、これからも弟をどうか宜しくお願いします。幸せにしてあげてください」
橘さんに深々と頭を下げた。
「俺の未知に近付き過ぎだ」
戻ってくるなり顔をしかめ、仏頂面になる彼。
「別にそういう訳じゃ………大事な弟のカミさんと、未知さんに挨拶に来ただけだよ。焼きもちを妬かれても正直困るんだけどなぁ……」
「悪かったな、焼きもち妬きで」
「そうやっかむなよ。でも良かった、幸せそうで」
「なぁ和泉……」
何かを言いかけて急に黙り込む彼。
「オレは大丈夫だよ。まだまだ修行が足りないけれど、誰もが認める立派なヤクザになってみせるから」
すっと立ち上がって彼に場所を空ける和泉さん。本心を悟られまいとあえて明るく振る舞っているように見えた。
【和泉さん!】
今、彼を止めないと後悔する……
なぜそう思ったのか分からないけれど、気が付けばスーツの裾を掴んでいた。
「え!?何!?」
慌て狼狽える和泉さん。
「未知はな、お前が無理していないかそれが心配なんだよ」
「遥琉………」
「お前は妻を喪った。俺だって、未知や子供たちを襲った真沙哉《アイツ》を許そうとは思わない。福井に何を命令された?」
「………」
和泉さんは目を閉じ、しばらくの間黙っていた。
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