342 / 3283

番外編 拗れた片恋

和泉さんの消息が掴めないまま時間だけが過ぎていった。 鷲崎さんに電話をしていたことがすぐに彼に知られてしまいかなり気まずくなったけれど、千里さんと橘さんが助け船を出してくれて。なんとか丸く収まった。 「……どうした?寝れないのか?」 布団の中でモゾモゾしていたら、彼の逞しい腕が背中に回ってきてそのまま包むように抱き締められ、幾度となく優しく髪を撫でられた。 【起こしてごめんなさい……】 「俺も寝れなくていたから気にするな」 うん、小さく頷いて大好きな人の腕の中にゆっくりと体を預けた。優しい温もりに胸がじんと熱くなった。 「未知、真沙哉のことで伝えていなかったことが一つだけある。真沙哉は、政府の機密情報を盗み出し、第三国に流していたスパイ容疑でインターポールから国際手配を受け、それで身を隠すために日本に帰ってきた。十年前被害を受けた女性は茜音以外にも数人いて、その関係者が闇サイトを使い、ある暴力団に真沙哉と大上の殺害を依頼したと専らの噂だ」 思わず彼の顔を見上げた。 「安心しろ、俺じゃない。それに裕貴でも、柚原でもないから」 にこやかに微笑んで、額にチュッと軽く口付けをされた。 「何があっても守るから……未知や一太、遥香・・・それに和泉も。だから安心しろ」 告げられる言葉が、澄んだ水のように全身に染み込んでいく。涙が出るくらい嬉しかった。 彼が口にしたある暴力団とは、西日本で最大の勢力を誇る九鬼総業のこと。姐さんとして知っておいて損はないからと柚原さんや根岸さんにみっちり教えられた。 東の昇龍会に、西の九鬼総業。

ともだちにシェアしよう!