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番外編 僕の想いがどうか彼に届きますように

「冷たい!」 バサッとタオルが和泉さんの顔に降ってきた。 「それでいいんだ」 見回りに行っていた柚原さんが戻ってきた。 「例え本懐を遂げたとしても九鬼総業に殺れていた。大事な人をもう失いたくない。生きてさえくれれば、それでいい」 「柚原………」 和泉さんの声がやがて涙声に変わり、両手でタオルを押さえながら、肩を震わせ静かに涙を溢していた。 「薄暗くてカビ臭いこの部屋にいつまでも未知を置いておく訳にはいかないだろ?早く歩けるなれ、いいな」 「うん、分かった」 和泉さんが頷くと同時に、グググッーと派手にお腹が鳴った。 「考えてみたら何も食べてなかったんだ」 照れ臭そうに苦笑いしながらお腹に手をあてる和泉さん。 お粥くらいなら作れるかも…… すっと立ち上がって急いで台所に向かった。 あれ!?電気のスイッチを何度押しても明かりがつかなかった。スマホの照明をあてると流し台しかなく、ガランとしていた。 「颯人さんに買い出しを頼みましたよ」 背後から橘さんの声が聞こえて来たから驚いた。 「二、三日中には九条組の組事務所に和泉さんを移しましょう。そっちの方が、ここにいるより安全ですから」 橘さんが大上さんの最期を話してくれた。 鳥飼さんから聞いた話しですが、そう前置きした上で。

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