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番外編 人質

メモ帳とボールペンあるか?鳥飼さんに聞かれポケットから取り出して渡すと、何やら書きはじめた。 《若頭補佐・九鬼善栄《くきよしえい》 本部長・九鬼靖志《くきやすし》》 鳥飼さんの手元を覗き込んだら初めて目にする名前が二つ並んでいた。 「大上の件でようやく分かった。先代がこの二人を差し置いて、十歳も若造の俺をなぜ若頭に指名したか。いずれこの二人も大上と同じように女関係で間違いなく身を滅ぼすだろう。睦は若すぎる。せめてあと十年。一人前になるまで俺が睦と九鬼総業を守らないといけない。その為には強力な後ろ楯が必要になる。だから福井に頭を下げに行ったんだ。でも敵同士には変わらない。当然ながら門前払いされ会うことすら叶わなかった。だから、お前を浚った」 【鳥飼さん・・・・】 やむにやまれぬ事情を、苦しい胸の内を明かしてくれた。 「元々睦は宇賀神組に行儀見習いに出された。見ての通りあの性格だろ⁉若い連中と些細なことで喧嘩ばっかして、三日と持たず宇賀神組を飛び出した。そのあと色々あって、九条組の組長が磨けば光る素質がある、うちで面倒をみるからと睦を引き受けてくれたんだ」 鳥飼さんが何気にスマホに視線を向けた。 「睦は逃げずに自ら囮になった。アホだよ、本当に・・・・」 悔しさを滲ませ分厚い唇を噛み締めた。

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